Book・Z V

□予約済み
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海面を通り抜ける風は、もぎたてのレモンのようにみずみずしく。

服に染み込んだ太陽の香りが鼻をくすぐる。

柔らかな日差しを身体に纏う、頭のてっぺんから爪先まで健全で健やかな今日。



の、はずだった。


「――っ、ゾロ、……んっ、」
「な、んか……文句、あっか、」


この上ない晴天の空の下、ゾロはわたしの唇を貪って。

その合間に聞こえる音は粘質。



口づけを交わすこと自体は、健全ではあるけれど。


「……だ、れかに、……んっ…、見られちゃ、う、」
「見、えねぇ、って」


わたしの頬に添う熱い指も、腰を引き寄せる大きな手の平も、健全といえば健全ではあるけれど。


「そ……、んな、わかんな、」
「……ったく」


そう呟くと、強引な唇は離れ、するりと耳の下に手が差し込まれた。

髪に隠れていた皮膚が曝け出され、ひんやりとした空気を感じた時には。

目の前にもう薄茶色の瞳はなくて、代わりに緑色の髪とその下に三連のピアスが覗いていた。


「……いっ、」


途端、ちり、とした痛みを感じて身体が強張る。

少しの時間の後、首元で低い唸りが聞こえた。


「これでいい」
「……え?」


顔を上げたゾロは、満足気な瞳。


「今食ったら、勿体ねぇからな」
「……?」


「予約だ。今夜。……落ち着かねぇとこを強引に食っちまうのも悪くねぇが、」
「え、」


「夜に、強請るミサをじっくり食うのも、また悪くねぇ」
「なに、」


未だ微かに痛む、薄い皮膚を撫でられる。


「痕、つけた。……これで予約済みだ」


そう言ったゾロは人の悪そうな笑みをこぼす。



健全な日和に、爛れた約束。


fin
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