Book・Z V

□あと
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例えば抱きしめられたり。
頭を撫でられたり。
キスをされたり。
抱かれたり。


大抵はいつも成されるがまま。
展開はゾロの思い通り。




でも、たまには。




「――なぁ、ミサ、」


わたしがそれに弱いと知ってか、低く少し掠れた声を耳に直接吹き込まれて。

暗い展望室の風景は途端に霞み、ゾロのシルエットだけがやけにくっきりと見えた。


耳元に温かくくすぐったい感触。
直後のちゅ、という音にキスをされたことを知り、身体中が熱くなる。



「…我慢できねぇ」


独特の艶と期待と確信とを孕んだ声に一層高まる身体の熱。


けれどその熱に比例して、いや、熱に浮かされて


わたしが出たのは



無言でゾロを押し返すという暴挙。



自分でもよくわからないその行動にさすがのゾロも刹那動きを止めて。


その隙に自分の不可解な行動を理解しようとした時には、


「痛っ」


更によく分からない痛みに襲われていた。



二つの瞳がぎらつく眼前。



「はっ……、たまには反抗的なのも悪くねぇ。押し倒し甲斐がある」


言うなり鎖骨に噛みつかれた。


相当な力だ。


時折懐柔させるかのように優しく舐め、大分手加減しているのだろうけれど。


ぎりぎりと皮膚に歯が食い込んでいく。



――痛い。歯形だけで済むのだろうかこの痛み。…痕が残れば明日からの服装に影響が出る。他のクルーに見つかれば、特にチョッパーに見つかったら有らぬ心配をかけてしまうかもしれない。……



「ゾロ……、痕、残っちゃ、う」



痛みを堪え両手でゾロを押し返して、身をよじって、背中に爪を立てても当たり前のようにびくともしない。




暫くして捕食者は満足そうに今まで自分が噛み付いていたところを確認すると、わたしを見据えてこう言った。



「安心しろ。これはおれに挑んだが故の、名誉の負傷だ」






ゾロはやっぱりいつも好き勝手だ。


だけど、それがどうしてか全く嫌じゃないらしいわたしもつくづく勝手だなぁ、と。


とうに痛みの引いた鎖骨を撫でながらクローゼットを開けるいつもの、朝。


fin
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