Book・Z V

□冬のおとも
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こたつにみかん。





肌寒い室温に熱いお茶をゆらゆらと冷ます時。

とめどなく思いを馳せるのは向かいに座っている恋人との今までのいろいろ。



意外に柔らかく笑うことを知った日。
どんな時も熱いくらいの掌。力強い眼は何もかも見透かしていそうで。
ぶっきらぼうな割に優しさはさりげなくて、いつも救われてばかり。
無防備な寝顔をつついてはどうしようもなく満たされた気持ちになって……。




「…ミサ、なにぼーっとしてやがる」
「……、んー」


はたと眼が合う。
思い巡らせすぎたようだ。
訝し気な視線をはぐらかした。



「……これ、やる」


と、ころころと目の前に橙色。


「食え。うめぇぜ」


嬉しそうにそう言ったゾロは子どもみたいな笑顔を浮かべている。
こんなゾロを何人が知っているのだろうと思ったらとても良い気分になった。


「ありがとう」


わたしも大概独占的な、と心でひとりごち、目の前のみかんに手をかけるとそれはほんのり温かくて。


楽し気なゾロに見守られながら皮を向き一房口へ入れる。


「ん……、おいしい」
「甘ぇか?」


「うん、あまい」
「だろ。手で揉むと甘くなるらしいぜ」


満足気に口端を上げるゾロ。

どうやらわたしが大好きなあの掌でみかんを揉んでくれたらしい。

それならば、と新しいみかんに手を伸ばし、わたしの少し冷たい両手に包み込んでやわやわと力を込めた。


そして、お茶をすするゾロ目掛けてかわいい橙色をころりと転がす。


「……お」
「甘くしといたわ」


少し嬉しそうに笑ったゾロはわたしを一瞥すると、ごつごつとした大きな手指で器用に皮を剥き、


「いららきまう」


みずみずしい球体はそのまま丸ごと口の中へ消えた。


「あめえ」


……人間に頬袋はないはずで。

それでも目の前の人間は、わたしの恋人は。
頬を丸くして真ん丸のみかんを食す。

嬉しそうに。


「よかったわ、甘くて」




ややもすると怖いだのと言われがちなわたしの恋人は、リスやハムスターの類いに違いないと確信した冬のある日。


今日この日に思いを馳せる時がもし来たらそれは何度でも微笑みとともに。



fin
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