Book・Z V

□猫可愛がり
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わたしの自慢は抜群のスタイル。


凜とした眼。
爪はぴかぴかに磨かれていて。
形の良い耳と、健康的且つスレンダーな身体。
すらりと伸びた手足。

身体に纏うは漆黒のビロード。



鏡に映った自分についうっとりしてしまう。




わたしは高嶺の花。
高嶺の黒猫。





「…ミサ……、どこだ…」





随分前、同居人は身の程を弁ずわたしに勝手にミサ、と名前を付けた。


初めは大層気に入らなくて無視をしたり、引っ掻いたりもしたけれど。

それでもその度に楽しそうな顔で、ミサ、と呼び続けるから。



仕方なくわたしはこの大酒喰らいで筋肉男の同居人にミサと呼ばれてあげることにしている。



そして、今。

名前を呼ばれた気がして、今度はどこに爪を立ててやろうと戯れに来てみれば同居人はぐうぐうお昼寝中。



このわたしを呼びつけておいて夢心地とはどういう了見。

文句のひとつでも、いや、酷い罵声を散々浴びせてやろう。
しかも耳元で……!
そして夢から醒めて、軽々しくわたしの名を口にしたことを後悔するが良いわ!




「にゃー!にゃ、にゃー!」


よし。言った!言ってやったわ!

ふふ、さぞびっくりして、……


「に゛ゃ!?」



急に首根っこを捕まれたと思ったら、目の前が真っ暗になった。

身体の前に固いような柔らかいような大きな壁があって自由に動けない。
強力な猫パンチも効かなくて、小さな隙間で身動いでいると、



「…どこ、いってた……」
「ミサ」
「いっしょに…ねろ……」



聞き慣れた寝ぼけ声がぽつぽつと上から聞こえてきた。


不覚だ。

どうやらわたしは同居人の腕の中に軟禁されたようだ。


頑張ってもそもそ動いても、更に強い力でぎゅうぎゅうと抱かれてしまう。



……仕方ないから、ここでふて寝してやる。


同居人の腕の中はいつものお布団より硬くて狭くて、
……いつものお布団よりちょっとだけ、ほんのちょっとだけ温かくて。
むにゃむにゃ喋る声も嫌いじゃないし。
何だかちょっとだけ、ちょっとだけ居心地が良いから。


大人しく一緒に寝てあげることにする。
仕方なくだけど。






「……ミサ、いいこだ」
「にゃ」



当たり前でしょ!


fin
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