Book・Z V

□酒豪と眠る猫
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おれの腰に腕を巻き付けたまま気持ち良さそうにすやすやと眠る女。
長い髪が無造作に女の顔を隠している。


今しがた飲み干した瓶は適当に転がし、新しい酒瓶を手探りコルクをむしる。

この酒も普段は飲めない様な上等なものなのだろう。
香りも味も、アルコール分も申し分ない。



それにしても猫か何かに纏わり付かれている様な気分だ。

時折身じろがれると起こさないようにと咄嗟に動きを止めてしまうから身動きがとれねぇ。


だが、微塵も悪い気がしねぇ。




数時間前――
ミサが大層難儀そうに木箱を持って展望室に上がってきた。

と思ったら無言で展望室を下りて、しばらくするとまた木箱を持って息を切らしながら上がってきた。


そして、鍛練が終わったおれに向かって満面の笑み。


「ゾロ!」
「あんだ」


開けた木箱にはどうだ!と言わんばかりの大量の


「酒か!」
「うん!」


だからあんなに重そうに運んできたのか。


「飲んでいいのか?」
「いいわよー。今日は酒豪ゾロと言えども潰れてもらうから!」


唐突な酒盛りはコルクの抜ける軽妙な音で始まった。



やたらと嬉しそうなミサ、他愛もない話と旨い酒。



そして転がった瓶が目立ちはじめた頃、すっかり酔ったミサはおれの腹に顔を埋めて既に呂律の回らない口で

ぞろ、いろんなところが、おめでとう、すきー

という謎の言葉を残して眠りについてしまった。



尤もおれが潰れるなんてのは有り得ないことで。



―――



すうすう、と規則正しい寝息が臍の辺りから未だに聞こえる。


髪の毛並み、放り出された長い手足。

これで尻尾でもついてりゃ紛れも無く猫だミサは。




肘置きにでもしようと手繰り寄せた木箱。
そこに書かれた文字を見て、おれは。


気持ちよく眠る猫の髪をできるだけ優しく撫でて、残りの酒を一気に呷った。



こんな気分もたまには悪くねぇと思いながら。





“Happy Birth Day!Zoro”
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