Book・Z V

□蜜と罠
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ピュアココア。
甘いミルクココアしか知らなかった幼い頃のわたしはそれ自体がむしろ苦いと知った時とても驚き、そして思いました。
これはオトナのための魅惑、そしてチョコレート色の罠だ、と。

それからしばらく経って少しは大人になり海賊となった今のわたしは、その罠を仕掛けたいと思う人ができました。

標的はクルーの剣士、ゾロです。


そういえばゾロは純粋なココアが苦いことを知っているでしょうか。
お酒とお腹に溜まるご飯類の他はまるで無頓着そうで、甘い物イコールブドウ糖くらいにしか思っていなくても納得する程にストイックなゾロのことです。
そもそもココアと聞いてぴんとくるでしょうか。


と、取り留めもなく考えながら既に滑らかな真白い粉の上へベルベットを想わせるダークブラウンのそれを振い落としました。

隣のボウルの中では卵と砂糖が混ざりあって綺麗なクリーム色の液体になっています。

わたしはレシピをもう一度確認してから、そのボウルへ白とダークブラウンのふわふわした粉を入れ、混ぜました。

すん、と息を吸うと芳醇なココアが香ります。何故か真っ直ぐ前を見つめるゾロの横顔を思い出しました。

そうこうしているうちに大人の罠は甘い甘い卵液と一体になっていきます。
その様子はわたしという甘美でない人間が、恋という蜜に溺れていくように見えました。


罠と蜜を混ぜ終えると、鉄板に流してオーブンに入れました。
しばらく焼けばココア色の平たいケーキができる予定です。


さて、今からチョコレートホイップクリームを作ります。純白を泡立てて最後にはチョコレートを入れるのです。

そのチョコレートホイップクリームにはきっと、たぶん、確実にわたしの恋心がたくさん入ってしまうことでしょう。そんな気がします。

そして焼き上がった罠と蜜は恋をくるくると巻き込んで、ゾロのお口へ入っていく予定です。




とろけそうな恋を包み込んだ芳醇なる罠がこの世にあることをゾロは知っているでしょうか。

そしてその罠にゾロ自身がきっとかかることも。


fin
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