Book・Clap

□いつもの
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常識であることが非常識なこの海で、覆るものは数知れず。




「嵐がくる!3時の方角へ逃げるわよ!!」


「よしきた、小娘!!」


「ナミすわんがおれの名前を!!!ラブハリケーンも超接近中ですぅぅぅ!!!!」


「うるせぇ、アホコック!!早く持ち場に着け!!」


「あんだと、マリモの分際で!!!」


目に映るポスターカラーを塗り付けたような青空から嵐は想像もつかないけれど、優秀な航海士の言うことに間違いはない。

しばらくして後方に真っ暗な雨雲を見た。



「ナミちゃんの予報は外れないわね。私には分からないことが多いわ。」


テーブルに咲いた手が頁を捲る。


尚、頭上には鮮やかな青。

芝生の甲板は皆の手入れの甲斐あって、この場合の皆に船長と三刀流剣士は含まれないけれど、青々とみずみずしい。


「えー、只今よりウソップ工場支部で火薬星の作り方講座をはじめるー。皆の者ー、」


「そんなことより釣りしようぜ、ウソップー。」


「今日はおれ、サメをつるんだぞ!」


和やかな会話を聞きながら、その青に腰を降ろして一流コックが丁寧にいれてくれた紅茶をひとくち飲めば、どこかの貴族にでもなった気分。

ソーサーに添えられたフローズンストロベリーを齧り、体温に溶けた蜜を舌で受け取る。


「なんだその赤いの。」


傍らを見上げれば何時の間にかゾロ。
どかっとわたしの隣に腰を降ろす。


「いちご。」
「そうか。おれァ、寝る。」


そのままごろんと寝そべったから、頭髪と芝生の境界線が曖昧になった。


風に乗って聞こえるバイオリンの音色は、どこか物憂げなメヌエット。

心がしなる。





常識であることが非常識なこの海でも、不変であろうことは数知れず。

それは何気ない日常に覚える充足感だったり些細な心の動きだったり、仲間の声の温かさだったり。


fin

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