短編
□Mitra
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目の前で風にひらひらと揺れるそれは、時折彼の表情を見せたり、隠したり・・・・
「なんの意味があるんだ?」
「・・・は?」
テイトがじーっと自分を見つめていたのは解っていたが、あえてここは無視してやるのが大人だろうと、フラウは集中して書類を片付けていたのだが、やっとテイトが口にした言葉は主語が抜けていた。
「その帽子のベール?みたいなやつ。なんで布で顔を隠す必要があるんだ?」
「これか?」
フラウが司教帽を取ってやると、ほんのわずかだがテイトがほっとしたような顔をする。
顔が見えないのが嫌だったのだろうと勝手にフラウは想像し、一応納得のいく答えをテイトに出す。
「確か・・・帽子事態が司教の権能の象徴だったはずだぜ。まあ、いろいろと諸説はあるだろうがな」
「ふーん・・・」
テイトは納得しなかったようで、フラウの手の中にある司教帽を見つめると、ぽつりと言った。
「花嫁さんが被ってるやつみたいだよな」
ウェディングベールのことだろう。
それとこれとは全く意味が違うだろう。
「ウェディングベールっつーのは悪魔や悪霊から花嫁を守る意味があるんだ。司教帽とは全く用途が異なってんぞ」
「そうなんだ・・・・」
世間知らずの坊ちゃんで育ったテイトはこういう雑学を知らないため、初めて知った事に目をキラキラと輝かせている。
「俺花嫁さんが付けるウェディングベール?ってのは、神聖な意味があるんだと思った」
「なんでだ?」
「えっと・・・なんか司教って神聖って感じがするんだ。白い司教服もそうだし、手袋も・・・。だから、ベールは俺たちみたいなのに触れないようにするものかなーって・・・」
テイトは目を逸らして早口でそれだけを言うと、『ほら、さっさと書類書かないと』と会話を打ち切ってその場を立ち去ろうとした。
「こら待て」
「おわっ!?」
ひょいっと、テイトを持ち上げると、フラウは机の上にテイトを座らせた。
「なっなんだよ!」
「ばーか。お前の考えていることなんて丸わかりなんだよ。・・・お前は全然汚くない」
どうやら正解のようで、テイトは一瞬身体を強張らせると泣きそうな顔をした。