短編
□Mitra
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「でもっ・・・!」
「でもじゃねえ。スクラーってことだけで汚いとか決まらねぇんだよ。むしろ、クソガキみたいなお人好しのどこが汚いってんだ」
「・・・・・それでも俺はたくさんの罪がある」
「俺もある」
テイトは弾けるようにフラウを見上げたが、フラウはニヤリと“悪人顔”で笑った。
「教会の、それも司教で酒・煙草・肉食・エロ本とやってるのは俺だけだろうな」
「・・・・・普通はしないだろ」
確かに罪だ。
司教の癖に信仰心もたいして持ってない。いや?本人自体が神様なんだから普通ならフラウが崇められる立場なのでは?
「(・・・欲に溺れた神様なんてありがたくないよなー)」
「おい。今何か失礼なこと考えただろ」
「い、いや・・・・」
「・・・っち。まあ、俺はこれが権力の証とも、悪魔から身を守るもんだとも思ってねーよ」
手の中にある司教帽をテイトに被せると、テイトの視界は薄いベールで少し陰った。
それでも、蒼い瞳が自分を愛おしそうに見つめているのは解る。
ほんのり頬を染めたテイトに気付いているのか、いないのか、フラウは顔を近づけるとベール越しに呟いた。
「司教のベールはな、信者に不安な顔を見せないためだ。どんな時でも人間だから顔に出ちまうから顔を隠して居るんだ。そしてーーー」
フラウはベールを持ち上げる。
まるで教会で式を挙げる新郎のように、愛しい者を迎えるような笑みを浮かべて。
「んでもって、花嫁のベールは花婿以外を見ない為に付ける目隠しだ。式を挙げて初めに見るのが花婿であるために」
そっと、テイトの唇にフラウのそれが寄せられる。
優しいそれはいつもと感覚が違って、まるで本当に結婚式を挙げているようだとテイトは思った。
名残惜しそうに離れていくフラウの瞳を見れば、フラウは苦笑してテイトの頭からずり落ちそうな司教帽を取る。
「そんな物欲しそうに見るなよ」
「・・・そんなんじゃない」
「つーか、手順間違えたなー」
「は?」
「祝福の言葉は・・・まあ、省くとして指輪がまだねぇんだよ」
―――だから、これが指輪のかわりな
テイトの左手を持ち上げると、フラウはその薬指を緩く噛んで吸い付いた。
テイトの手がビクッと震えるが、もう一度チュッと音を立てて薬指にキスを落とせば、面白いくらいにテイトの全身は真っ赤に染まる。
「近いうちに用意してやるからそれまでこれで我慢な?」
「・・・ぃぃ」
「ん?」
「・・・指輪が無くても、これがあるから・・・いい」
恥ずかしそうに、けれども嬉しそうに左手を握りしめるテイトを見て、フラウはその形の良い顎を捉えると、先ほどとは違う激しいキスをテイトへ送った。
「―――これでお前は俺のもんだ」
深くなる口づけの合間にテイトの唇の上でフラウが囁けば、テイトはフラウの首に腕を回しで抱きついた。
それを了解の言葉とし、フラウは愛しい花嫁を愛でるためにさらなる口づけを送った。
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→後書き