銀魂

□必需品
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「マ・・・・・マヨネーズ・・・・」

土方は人が賑わう歌舞伎町の道を一人おぼつかない足取りで歩いていた。
頬は心なしか痩せこけていて、顔はいつも以上に疲れが見えた。
土方がこのような状態になったのは、いつもの様に仕事をしない上司や部下のフォローや、自分の仕事に疲れを覚えた、というわけでは特にない。
いや、まぁそれもあるのだが、今日の所はメインはそこではなかった
原因は・・・・

「マ・・・・・マヨネーズが・・・・マヨネーズが足りねぇ・・・・」

そう、彼自身がボツボツと呟く通り、

マヨネーズ不足が原因であった。

彼はここしばらくマヨネーズを摂取していない。
といっても、二日三日程度ではある。
が、しかし、彼にとっては二日三日はもうすでに限界が来ていた。
ただでさえ一食分マヨネーズを抜いただけで禁断症状が出るほどなのに、その何倍もの量を摂取していないのだ。こうなることも頷けるだろう。
そのようにまったく摂取できない状態に陥った原因には、もちろんあの男がいた。

(総悟の野郎っ・・・・・!!!)

そう、沖田総悟以外に誰もいなかった。

事の始まりはその最後にマヨネーズを摂取した時まで遡る






いつものように屯所の食堂でマヨネーズでご飯が見えなくなった得体の知れない飯を土方が口へとかき込んでると、前に座っていた沖田がこんな事を言いだした。

「土方さん、俺らはその情景慣れてきたんで最近は忘れてたんですが、冷静になって考えてみると、アンタ本当に死ぬんじゃないんですかィ?」

そう言ったのを、さらに沖田の隣に座っていた近藤が聞き逃すわけがなく、

「そうだぞ?トシ、いい加減にしないと本当にまずいぞ?」

そういって心配そうに、それでいて怒ったように土方の顔を覗き込んだ。
だからと言って、マヨネーズ命の、体の成分の9割がマヨネーズでできてるようなマヨネーズ男がそんな心配をしっかり聞くわけはなく、

「うるせぇな、どうしようと俺の勝手だろ?」

そういいながら、ご飯をかき込む手を止めようとはしなかった。
そんな土方をみて近藤も沖田も呆れてため息をつく。
そこで沖田は「あ」と声をあげた。

「いい事思いつきやした。こんなのどうでしょう?」

わざとらしく手をポンっと打ち、近藤と土方に自分の考えを伝える。

「これから土方さんマヨネーズを全面的に禁止していくとか、いわゆる禁煙ならぬ禁マヨでさァ。いいですねェ、これにしやしょう」

そんな沖田の発案に土方が反対する前に近藤が

「いいな!それ、やるか!」
「はぁっ?!」

思わず食器と箸をがちゃんっと机にたたきつける土方。だがそんな土方など気にせず、近藤と沖田は勝手に話を進めていく。

「よしっ、期限は一週間だな、とりあえず」
「そうですねィ、最初はそのくらいで勘弁してやりやしょーかィ」
「ちょっ・・・・まてっ・・・・」
「クリアできなかったらどうするー?」
「そうですねィ、特別な罰ゲームでも用意しておきましょーかねィ」
「まてまてまてまて!俺はやるなんて一言もっ・・・・」
「「よしけってーーーーい」」
「実行は次の飯からな」
「ちゃんと最後までやり遂げなせェよ?」

そう言って席を立ち去っていく沖田と近藤。
去り際に、沖田がちらりと土方を見て、いつものニヤリ、というドS丸出しの笑みを浮かべるのが土方にははっきり見えた。

(総悟コノヤロォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!)

土方は声にならない叫びを心の中であげて、その場で絶望した。







・・・というのが、土方が冒頭のようになった理由である。
そんな中でも二三日続けられたことは彼にとっては大変褒められるべきことである事に違いない。
が、しかし一週間、と一度言われてしまい、始められると途中で自分からギブアップだと告げることができない負けず嫌いなところが土方の長所であり、短所でもある。
だが、そんな土方もやはり限界はある。
いますぐにでも、どんな罰ゲームがあろうともマヨネーズが食したくて仕方なかった。

(マ・・・・・マヨネーズっ・・・・・・)

禁断症状らしきものの所為なのか、土方の視界はだんだんとぼやけてきていた。

――このままだと、倒れるかもしれない・・・・・・。

そんなことを冗談抜きに土方が思い始めた頃、ちょうどその時だった。

「おーい、そこのオマワリサーン?大丈夫ですかー?」

背後からかけられた聞き覚えのある声に土方は振り向いた。

「よっ」

片手を挙げてあいさつするのは、紛れもなく恋人の銀時であった。

「銀時・・・・・」
「なになにー?なにがあったのさ?そんな顔して。悩み事なら銀さんが相談に乗るぜぇ?」
「・・・・」

そう言われて限界が来ていた土方は迷うことなく銀時に言った。

「マヨネーズ・・・・・マヨネーズをくれよっ・・・」
「マヨネーズ?いいけど」

あっさりと答えた銀時に、土方は目を輝かせて銀時に迫り寄った。

「本当かっ?!」
「ほ・・・・本当だけど・・・何がどうして・・・?」

たじろぐ銀時など気にせず、土方は銀時の胸にしがみつき、抱きついた。

「銀時大好きだぁぁぁぁぁぁ。俺お前のお嫁さんになるー」
「あはははー、キャラ崩壊しすぎてるけど土方君だったら積極的なのも嫌いじゃないなー」

半泣き声で普段の土方からは想像できない様な事をいうから、銀時は動揺しながらも軽く流してやった。

「じゃー、なに、万事屋来るかー?」

こくりと頷く土方。
銀時も土方も万事屋に行こうと歩みを進めた瞬間、

ひゅぅっん

なにか黒い物体が若干の光を放ちながら銀時と土方の間―どちらかといえば土方寄り―を横切っていく・・・と思いきや、そこでそれは光を放ち、

ドカァァァァァァァァァァァァンッッッ

爆発が起きた。

「あ、すいやせーん旦那ァ、手がすべりやしたぁ」

そういって爆風のなかからさっそうとあらわれた沖田。
その手にはもちろんバズーカが握られている。

「何すんだァァァァァコノヤロォォォォォォォォォ」

若干涙目になりながら銀時はキレた。
だが沖田はそんな銀時を気にする様子もなく、土方へ向かって行く。

「土方さーん?言いやしたよねィ?一週間禁マヨだって」
「そ・・・それは」
「え・・・なに?きんま・・・・?なにが?なにがどうなってるかんじ?」

黒笑みを浮かべるS王子と口ごもるマヨ男と、まったくワケも分からず巻き込まれている第三者の糖分王。

「罰ゲームの時間ですぜィ?」

そういい、ニヤリと笑うと、沖田は土方の手首をしっかりと掴み取り、屯所方向へと無理やり引きずっていく。

「待てよ!俺はまだ口にはしてなっ・・・」
「俺が止めなきゃぜってー口にしてたでしょう?それに、屯所に戻ったら好きなだけ喰わせてやりやすから」
「ほんとか?」

沖田の言葉に聞き返す土方だったが、沖田の意思にいち早く気がついた銀時は

「待てェェェェェェェ!!!!!土方君んんんんんんんんん?!逃げろおぉぉぉ今すぐ逃げろぉぉぉぉぉぉぉ」

必死で土方に呼びかけるが、足の速いことに、沖田は土方を連れてずいぶん遠くまで行ってしまっていた。
どうしようもできなくなった銀時は、土方へ向けて突き出していた右手を力なく下ろし、

「ご武運を祈る・・・・・・すまんっ」

そういって胸の前で十字架をきった。






そしてまた、この後土方はひどい罰ゲームを受けるわけだが、それはまた、別の話。

















  <fin>

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