(book)頂き物


□愛しさ求めし二面の鏡
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「まったく、鼻垂れのせいでこちらは大迷惑したんですからね?」

そう言いながら何かをゲシゲシと蹴り続けているのは帝国軍人、ジェイド=カーティス。

マルクト軍基地本部の一室にて拘束されている何か…もとい、とある人物…もとい、ディストを容赦なく蹴り続けていた。

その光景を遠巻きに見ているのはルーク一行で、皆が迷惑そうな目と顔をしてディストを睨みつけている。

「泣きそうな顔してたぞ…アリエッタ。あんな暗い所に閉じ込めて…可哀想と思わないのか?」

「それにお父様のレプリカまで…私、もう一度あの人と戦うことはとても辛かったんですのよ!?」

「教官のレプリカまで作っていたなんて、本当にバカなのねあなたって。命をなんだと思っているの!?」

「いい加減にしなさいよ鼻垂れ!もうイオン様と同じ死に顔なんて見たくなかったんだからね!?」

「しまいにはあんなでっかいバケモノまでご用意してたなんてな…これはもう旦那のレプリカ理論云々の話じゃないんじゃないか?」

それぞれが閉じ込められていた四人と一匹のレプリカについてを主に避難の言葉を次々と言い放っていく。

しかしその五人の言葉に引っかかる部分があったらしく、ディストはジェイドの蹴りを受けつつもガバリと顔をあげて声を張り上げた。

「…ちょ、ちょっと待ってくださいよ!そのレプリカしかいなかったんですか!?」

「「「「「……はぁ?」」」」」

やけに大きく張り上げられたディストの声にポカンとしてしまったジェイドを除く五人は、語尾を思いっきり上げて素っ頓狂な声をあげてしまった。

しかし短かったディストの発言でジェイドは完全に幼少期からの腐れ縁であるこの男のバカさ加減に気付いたらしく、思いっきり後頭部を踏みつけて地に伏せさせてしまう。

「…まだ他にも作って隠していたということですよね?今の発言は。」

そう問うもディストからの返事は一切ない。

…しないのではなく、出来ないのだ。

後頭部を思いっきり踏みつけられている最中では顔面が床に固定されている状態のままということであり、ろくに口も利けない状態であることでもあるのだから。

ジェイドはようやく踏みつけていた足を離しディストの顔面を床から解放する。

そして詳しい話を聞くためにと右手から一本の槍(=グーングニル)を取り出し、その切っ先をディストの喉にあてがった。

「サフィール、何を隠していたのか教えてくれますね?」

「かっ…かか、完全同位体の実験過程で作ったレプリカですよっ!!」

槍を突き付けたジェイドの問いかけにディストはあっさりと答えてしまう。

いつものディストなら勿体ぶったり核心に触れないように、言葉を選びつつこちらをイライラさせるというのに今日に限ってはかなり素直だった。

…それもそのはず、槍を構えるジェイドの目が一切笑っていなかったからだ。

そんな状態のジェイドは完全にキレていることが多く、幼馴染みであるディストがそれを知らないはずはない。


そんなジェイドに槍(しかもグーングニル)を突き付けられて普段通りのやり取りをした直後、その切っ先が喉に食い込むか突き立てられるかしただろうことは安易に予測できるため素直にならざるを得なかったのだ。

ディストはさすがに今の状態では命が危ないと踏んだらしく、必死に隠していたことを全て洗い浚い吐き出し始める。

「コーラル城でヒヨコを連れていった時にレプリカ情報を抜き取ったんです!この世界で唯一の完全体と言っても良いレプリカの『成功品』ですからね!きっとこのヒヨコの情報を使えばネビリム先生を蘇らせる研究が飛躍的に向上すると思ったんですよ!!あそこのレプリカ施設に隠していたのは六神将の四人のレプリカと複合レプリカのレプリカンティス、そして実験段階だったヒヨコのレプリカですっ!!!」

一気に捲し立てたディストの言葉を聞いて仲間達は目を見開き絶句した、それはルークも同じことで。

自分のレプリカが生まれていることもショックだったが、なおかつあの施設に隔離されていたこともショックだったようだ。

さすがのジェイドもその言葉は想定していなかったらしく、槍を構えたままで眉間にしわを刻んで険しい顔つきになっている。

そんな六人の反応を一切気にしていないディストはさらに情報を暴露し続ける。

「研究は良いところまでいっていたんです!能力劣化も色素劣化も発育劣化も見られない!音素振動数も同じとまでは言いませんが近い数値まで達していました!でも最終段階になって突然人格が崩壊して手のつけられない状態になったから隔離するしかなかったんですよっ!!」

「そんな理由でルークのレプリカも封印したの!?生みの親が最後まで面倒みなさいよこの鼻垂れディストぉーっ!!」

「薔薇だと何度言わせるんですか!?暴走状態のレプリカがどれだけ危険か貴方達は全然知らないでしょう!?それにあのレプリカは今までで一番完成品に近かったんです!これからの研究のためにも手放すことは勿体なくて出来なかったんですよっ!!」

そんなことを言ってのけるディストに、正直全員が避難の目を向けていた。

ぎゃいぎゃいと言い合い続けるディストとアニスの間に言葉で割って入ったジェイドは、ルーク達に目を向けて静かに話し始める。

「……人格崩壊のレプリカは基本、その身体が朽ちるまで一番高まっている衝動に駆られて彷徨うはずです。しかしあの施設内のどこにもそんなレプリカの姿は無かった。」

「…レプリカンティスを倒してフォミクリー装置を破壊したら…完全に反応が消えたって…シバ、言ってなかったぁ?」

ジェイドとアニスがそう言うと同時に、その場にいた全員がサーっと顔色を悪くしてしまう。

シバの話は本当で、ディストの話も本当であるとしたら…。

「ルークのレプリカが施設から出たってことかっ!?」

ガイが大きな声でそう叫んでしまったが、皆同じことを考えていた。

シバの持っていた装置に反応がなかった、それはあのレプリカ施設内にフォミクリーやレプリカが一切無いことを証明している。

そしてディストの言葉では、あのレプリカ施設内にはフォミクリー装置とレプリカンティス、そして合計五体もの人体レプリカが隔離されていたと証言している。

ルーク達が倒したレプリカはレプリカンティスを含めても五体で、ディストの証言によると一体足りない。

全ての情報や証言がもし本当だとしたら今も人格崩壊を起こしたルークのレプリカは、あの薄暗いレプリカ施設を抜け出して世界のどこかを徘徊していることになる。
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