切なさと愛しさの間
□第三章 質問するときは言葉を選ぼう
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―次の日―
あれから一睡も出来ず、部屋でただうずくまっていた私は、女中としての仕事をすべく、台所にいた。
本当ならここから逃げ出したい。
この船から出れば、高杉様に会うことはないだろう。
そうすればこの心の痛み、悲しみから逃げられるかもしれない。
でも・・・
私は逃げなかった。
それでも、高杉様の傍に居たい。
こんなにつらいけどそれでも私は
高杉様が好きだから―
それに仕事をしている時は何も考えずにいられる。
そう思い、私は一人、人数分の朝食を作っていたら、後ろから声がした。
「おはようっス!」
元気のいい声で私に挨拶してきたのは、また子さんだった。
『おはようございます。』
私は落ち込んでいるのを悟られない様、無理に笑顔を作り、振り向いた。
また子さんはそんな私に気付かず、先程作っておいた煮物をつまみ、
「これ、めっちゃおいしいっス!!」
と、笑顔でもぐもぐ食べた。
そんなまた子さんを見て私は昨日の事を思い出し、ふと思った。
―また子さんは高杉様と体の関係はあるのだろうか?
考えてみれば、この船で女の人って私とまた子さんしかいない。
また子さんは綺麗だし、スタイルだって凄くいいし、いつも‘晋助様〜’って慕っている。
高杉様だって変な話、あの艶かしい顔やオーラ。
色んな女性と体を重ねているに違いない。
そんな二人が傍にいたら何も起こらないわけがない。
・・・どうやら私の頭は昨日の情事を見てしまってからというもの、今まで考えなかった事が気になってしまった。
そして、あの時の冷静な無表情の高杉様の顔が忘れられず、
『・・・〜なんですか?』
「えっ?なんスか?」
つい、また子さんに聞いていた。
『・・高杉様は、いつも冷静な顔でするんですか?』
「はぁ?」
顔を真っ赤にしてとんでもない事を聞いた私にまた子さんは目を丸くし、何の事を言っているのかさっぱり分からない様子。
「サリンダ、何言ってるんすか?晋助様はいつも冷静な顔ではないっスか。あ〜でも、サリンダを見る時はすこ『違います』」
私はまた子さんが言い終わる前に口をはさんでしまった。