玖賀家の恋愛事情

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うう…、今日は寝起きから酷い目に遭った……。
ご飯食べにリビング行ったら、寝ぼけて人に抱きつくなって南君に怒られたし、貴仁君には笑われたし。
俺そんなことしたっけか…。よく覚えてないなぁ…。
おかげで夕食(俺にとっては朝食だけど)を食べ損ねるところだった。危ない。
「おー、玖賀。今、出社か?」
綺麗に磨かれた廊下をたらたら歩いていると、向こうから制服を着た同僚が歩いて来るのが見えた。
「うん、今から。堺はもう上がり?」
「ああ。もー、くったくただよ。控え室行くんだろ?一緒に行こうぜ」
二つ返事で頷き返して、後輩の堺の隣を並んで歩いた。
俺は今、自分の勤める会社に来ている。
このやたらでかい建物の会社は、ボディーガードレンタルシステム。通称BRSという、その名の通りのボディーガード派遣会社だ。
普通ボディーガードなんて、どっかのお偉いさんや要人が連れて歩いてるイメージが強いけれど、この会社は一般の会社や個人などを対象にボディーガードを派遣している。
ホストをやめた俺は、現在この会社に雇われているのだが、よくもまあ元ホストがこんな大きな会社に就職できたなあと思う。
勿論それには色々と理由があるんだけど…。
「なあ、聞いてくれよ、玖賀」
「んー、何?」
控え室に入り、警備服に着替えながら堺を見る。
「俺さ…、今回の仕事すっげー大変でよ…」
疲れた様子で肩を落した堺に、少し苦笑する。
「堺の今回の仕事って、ええっと…どっかの町内会の警備、だっけ?」
うーん、と唸りながら渋い顔で記憶を掘り返して言うと、堺がそれに頷いた。どうやら合っていたらしい。
「そー、それそれ。町内でやたら物が壊されたり、飼ってるペットが殺されたり怪我させられたりで、町の子供達まで狙われるんじゃないかって心配した町会長からきた仕事だったんだけどさぁ……」
「うん、それで?」
「ちょうど俺がその町の警備してる時に、事件が起きちまったんだよ!」
「で、堺はその犯人を取り逃がしてしまった…と」
堺がやたら深刻な顔で話すので、俺も顔だけ真面目にして言った。
「ちげえよ!ちゃんと犯人は捕まえたっての!」
勝手に話を作るな、と堺が声を張り上げた。
「あ、そうなの。いやあ、堺の事だから、ぼーっとしてて何かヘマしたんじゃないかと期待してたのに」
「お前の中の俺はどんなキャラなんだよ!」
つうか、ヘマを期待するなよ!と付け加え、堺が目を剥いて怒った。
堺は見た目は今時の子(?)みたいな感じで、軽そうに見えるけど、中身は至極真面目人間だ。
だから、からかうと凄く面白い。叩けば鳴る!みたいな感じで。
堺はぼーっとしてるとか仕事でヘマするとか、そういうタイプの人間ではない。
与えられた仕事は早めに終わらせる優等生みたいな人だ。…見掛けによらず、ね。
堺のリアクションが楽しくて笑いを堪えるのに必死になっている俺を無視し、一つ咳払いをして気を取り直した堺は、再び話を始めた。
「動物とか、建物とかも酷く壊してたみたいだから、どんな凶悪な犯人なのかと思ったら、それがなんと中学生位の子供だったんだよ」
「へえ、それで?」
ちょっと珍しいケースではあるが、実は犯人が子供でしたって話も無いわけではないのだ。
堺も多分、それは分かっている筈だから、まだ話は終わりではないのだろう。
「ちょうど夜だったこともあって、相手の顔もよく見えなかったし、俺はもっとこう…悪そうな奴を想像してたからよ、捕まえた時に容赦なくそいつの腕を捻り上げちまったんだよ。そしたら、そいつさ……」
その時の事を鮮明に思い出したのか、堺がげんなりと老け込んだ表情になった。
「ふぎゃあああー、とか言って泣き出したんだよ」
堺の顔は至って真面目だった。
「……っ、ふふ。ははははは!…そんな変な話、真面目な顔で言わないでよ!」
堪えきれなくなって、腹を抱えて笑う俺に、堺は必死になって言う。
「わ、笑うなよ!子供が泣いたせいで、俺が悪者みたいになったんだからな!」
「いや、絶対笑い話だって、それ!」
ひーひーと笑い過ぎて息を切らした俺は、ひとしきり笑い終えた後で制服のポケットをまさぐった。
「はい。これあげるから元気出して」
「子供扱いかよ!」
ポケットから取り出した飴を差し出すと、堺は不満そうな顔をしつつもそれを受け取った。
「まーまー。堺はまだ若いんだからいいじゃない」
「若いって、玖賀…。俺もう三十手前だぞ?」
「うん、知ってるよ。二十八歳になったんだっけ?」
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