バクマン 短編集

□じょい
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「へえ、貴方達が亜城木先生?」
「え、あ…はい」
「えっと…貴方は…?」

目の前で不敵に微笑む女性に二人は全く見覚えがなかった

一体どうして自分達を見てペンネームが分かったのか、それは恐らく彼女が漫画家か編集側の人間で編集室や新年会などで会ったからなのだろう、もしくは、可能性としては低いが、他の先生方のアシスタント、もしくはアシスタントの誰かの友人、又は大学の友人関係…という答えに、頭のいい二人は瞬時に辿り着いたのだが、生憎、どれもパッとしない
そもそも、あの狭い大学で言い方は悪いが同年代の学生よりも明らかに年上の女性を見た事がない

地味な格好で、それもTシャツにスラックスという典型的、といっては何だが、とにかくラフな格好
足元に目を向ければ程々に履き潰された健康サンダルが目に入る

もう一度顔を見ればうっすらとでも化粧の施されていない…所謂素っぴんというやつで、「女の人は化粧一つで変わる」という台詞が頭を過った

やはり何処かで会っているのでは、再びそう思い直し、勇気を振り絞って尋ねようと口を開く

「「あ、あの…(あ、被った…)」」
「話は常々真太から聞いてるわ、なかなかのトラブルメーカーだって、良い意味でね」
「真太…?」
「(どっかで…)」
「でも生憎、貴方達の漫画読んでないのよ、貴方達限定じゃなくて漫画自体ね、漫画読む程の暇がなくて」

あははと笑い飛ばす女性に何故か腹が立たなかった

それにしても、暇がないとは一体どういう意味だろう
先程の発言で目の前の女性が漫画家、あるいは編集側等々、可能性として挙げていた殆んどが消えた
そして新たに浮かんだのは、親しい漫画家、又は編集側の人間の友人、というカテゴリ
自分達が色んな意味でトラブルメーカーなのは言われなくとも理解しているし、それが良い時もあれば悪い方に流れる時がある事も理解しているが、それを知っているのはやはり親しい漫画家か編集側の人間…

それに真太という名前に聞き覚えがあるのも間違いない

一体何処で聞いたのか、必死に記憶を探ってみるが、何故だか思い出せない

「もうこんな時間…折角会えたのにごめんなさいね、早くしないと怒られちゃうからさあ」
「え、あの…」
「怒られるって…」

誰に?
そう続く前に響き渡った声

「ったく!何やってんだよ!こんな所……で…」
「………福、田…さん…?」
「え…今…え?」
「………」

何か、一瞬でマズい状況である事を悟る
ゆっくりと視線を女性に移せば、必死に笑いを堪えている所だった

そして先程現れた福田さんに視線を戻すと、真っ赤な顔で肩を震わせていた

「な、んで…!」
「え!?」
「あの!?」
「何でお前が…!この二人と一緒にいるんだよおおおお!」
「そこにいたから」
「おおおお前はそこにいたら見知らぬおっさんにも声かけんのかよ…!」
「おっさんって…具体的に何歳から?もっと詳しく言ってくれないと、ねえ?」
「え…!」
「あの…!」

こっちに振るなとばかりに狼狽えれば福田さんは相変わらず顔が真っ赤で、先程と違う所といえば耳まで赤くなった事くらい

「時間になっても来ねえから!何かあったんじゃないかって心配して来てみれば…!」
「男の子侍らせてました」
「自分で言うな!俺というものがありながら!」

帰んぞ!

まるで嵐が去った後のような静けさにサイコーもシュージンも、ただひたすら二人が去っていった方向を眺めていた




……俺というものがありながら?




あら、亜城木先生じゃない、お久しぶりです、旦那がいつもお世話に…旦那!?誰ですか!?やだあ!真太よ真太!福田真太………………え?聞いてな…あ、電話、ちょっと失礼…はいもしもし、え?急患?分かったすぐ戻るわ、私が戻るまでの指示は佐藤先生に、それじゃ…ごめんなさいね、ちょっと急用が(福田さんの奥さん女医だった…!)(っていうかいつ結婚したんだ…!)


(100919)

ちなみに専門は?って聞くと「のうげ(脳外)(はあと)」って返ってくる






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