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一年に一度、織姫と彦星は逢うことを許された日があった。
それが今日、7月7日。
所謂七夕である。


「兵助ー!」


自分の名を叫ばれた久々知兵助は、身体を反転させた。
叫んだ人物は、同じ五年生の竹谷八左エ門。


「八左エ門…。どうした?」


「いや、兵助の姿が見えたから」


にっと笑った。


「僕はこれから食堂に行くんだ」


もうとっくに夕飯は食べ終えたはずだ。
なのに久々知が食堂に行くと言うことは…。


「また豆腐作りか?」


久々知兵助と言えば、豆腐小僧と呼ばれる無類の豆腐好きだ。
豆腐好き故に自らもよく豆腐を作ってみんなに振る舞っている。
そんな久々知の豆腐作りの腕は確かだ。


「今日は七夕だから星でも見ながら食べようと思ってね。ついてくるか?」


「あぁ!」


二人は食堂に向かった。
久々知が豆腐作りに勤しんでいる間、竹谷は何をするでもなくじっと久々知のことを見ている。
その間にも次々豆腐が製造されていく。


「何にやにやしてるんだ?気持ち悪いぞ」


「に、にやにやなんてしてないだろ!」


完全ににやけている。
おそらく下心丸出しで久々知のことを見つめていたのだろう。


「まぁ良いけど…。それより、少し作り過ぎてしまった」


確かに一人で食べるには少し…いや、かなり多い。


「俺も食べる!」


竹谷は身を乗り出して言った。
久々知の作る豆腐が美味しいから…というものではない。
竹谷は、久々知の作った豆腐を、久々知と一緒に食べたかったからそう言ったのだ。


「本当か?じゃぁ、一緒に食べよう」


竹谷は満面の笑みを顔に浮かべて頷いた。
そして二人は五年生の宿舎へ戻っていった。


「今日は晴れて良かった」
宿舎の縁側に二人は並んで座った。
豆腐を幸せそうな顔をしながら食べている久々知を横目で見ていた竹谷は頬の筋肉を緩める。


「どうかした?」


視線に気付いた久々知は、食べる手を止め、竹谷を見た。
交わる視線。
今夜はとても明るい。
その為、相手の表情がよく見えた。
見慣れた竹谷の顔に、久々知はどきっとしてしまう。
目の錯覚だろう、と久々知は自分に言い聞かせた。


(別に八左エ門にどきどきしている訳ではない。これは…)


竹谷のことを考えれば考えるほど体温が上がっていく。
久々知はそんな気がした。
顔が赤くなっていないかが心配で、久々知は俯いた。


(落ち着け。そうだ。豆腐!豆腐を食べよう!)


「は、八左エ門…さっきから箸が進んでないようだけど…。口に合わなかった?」


「いや、そんなことはない」


竹谷は豆腐一丁を平らげた。


「お、そうだ…」


竹谷はおもむろに懐に手を忍ばせると、紙切れを二枚取り出した。
色紙だ。
そして、その紙切れを一枚久々知に差し出した。


「これは?」


久々知は紙切れをじっと見つめた。


「ほら、今日は七夕だろ?だから、短冊だ」
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