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□A
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―命をそう軽んじるもんじゃねーぞ、兵助。
植物も虫も獣も、命の限り精一杯生きてる。
生きようと必死にもがいてるんだ。
だから…




「あ、久々知先輩!」


久々知兵助は今日、仕事が早く終わり、帰り道でもあったため、三年前に卒業した忍術学園へやって来ていた。
仕事というのも忍の仕事だ。


「やぁ伊助。久し振りだな」


久々知が五年生の時から委員会絡みでよく面倒を見ていた二郭伊助が久々知の姿を見つけ、走り寄ってきた。
懐かしさから、仕事で緊張していた久々知の頬が若干緩み、そこから微かながら笑みが溢れる。
思えば久々知は忍術学園を卒業して以来、一度もここへ来ていない。
懐かしいと思うのも当たり前だった。


「はい、お久し振りです!」


「しばらく見ない間に随分身長が伸びたな」


三年もの間に、かつての後輩はぐんと成長していた。


「はい!先輩が元気そうで良かったです。他の先輩達も元気ですか?」


そんな質問を聞いて、久々知はふと、自分が同級生であった者達の事を何も知らないという事を知った。
誰が何処で、どんな仕事をしているのか…。
久々知は全く知らなかった。
目の前の仕事に追われ、そんな事にも気がつかなかった。


「さぁ。今はもう、誰とも会っていないよ…」


「やっぱりそうですか…」


「やっぱり?」


「尾浜先輩も鉢屋先輩達も、誰も他の同級生の事を知らないんですよ。あ、でも鉢谷先輩と不破先輩は一緒に居ましたけど」


「ハチ……八左エ門は来ていないのか?」


名前の上がっていなかったもう一人の人物の名を上げると、伊助は思い出したように言った。


「そういえば、竹谷先輩は卒業してからまだ一度もここに来てませんね」


「そう、か…」
それが何を表すのか。
ただ単に仕事が忙しく来れていないだけなのか、それとも…。
久々知は、忍術学園を卒業する前、確かに竹谷が自分は忍びとして生きていく、と言っていたのを小耳に挟んだ。
忍びの道は厳しく、常に死と隣り合わせだ。
いつ死んでもおかしくはない。


「あれ、久々知先輩?」


何も言わずに歩き出した久々知の背中に、伊助が声をかける。


「僕はもう帰る。またな、伊助」


短く別れを告げると、久々知は足早に忍術学園から立ち去った。
そしてある場所へと向かう。
そこは昔、久々知がまだ一年生だった頃、竹谷が生物委員会でうさぎを飼育していた時、死んでしまったうさぎのために、竹谷が作った墓があるところだった。
久々知は、そこに竹谷が居るとも思っていなかったが、気づけばその場に足を運んでいた。


(ハチ…御前は今、何処で何をしているんだ?)


うさぎの墓に着くと、やはりそこには誰も居なかった。
だが、そこは昔から何も変わらず、握り拳くらいの石が、いくつか積み重なった簡易な墓がある。
それも、ひとつではない。
竹谷は死んでしまった生き物を、よくここに埋めていたからだ。
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