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□B
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保健室に残されたのは食満と、煎じかけと思われる薬草…。


「この匂い…薬草の匂いか…?」


部屋に充満する甘い匂い。
その匂いが、段々と食満の感覚を奪っていく。
これはまずいと思い、食満は保健室から出ようとしたが、立った瞬間激しい目眩に襲われる。
障子まで、数歩という距離なのに、自分の回りの世界が回るような目眩で、前に進めない。
そして遂には気を失い、その場に倒れこんでしまった。


「しばらくお休み…留三郎」


静かに障子が開いて、現れたのは善法寺。
善法寺の妖しく光るその眼に、食満の姿が映る。
その後、食満が目を覚ましたのは、夜も更けた頃だった。


「こ、ここは…?俺は一体…」


「目が覚めた?」


食満が視線を横に移すと、そこには善法寺が居た。
食満はいまいち状況が掴めない。
しかし、自分の今の姿を見て、一瞬にして青ざめた。
上半身はほとんど服を着ておらず、手足は縄できつく縛られている。


「伊作…お前…何する気だ?」


「僕は前からずっと思ってたんだ」


善法寺は食満の話に耳を傾けもせず、いきなり話始めた。


「僕は前から留三郎の事大好きだよ?でも、いつだって僕だけの物じゃなかった」


段々善法寺の口調が強くなる。


「だから、今日こそ僕だけの物にしようと思うんだ」


「待て…お前……何言って…」


善法寺は鼻先が触れるくらいまで食満に近づいた。
いつもの善法寺だったら絶対に浮かべない表情を浮かべている。
食満は底知れぬ恐怖を感じた。


「どうしたんだ?留三郎。僕が怖いのか?」


食満は下唇を噛んだ。
そして、何故軽い火傷で保健室に来たのかと悔いる。
来なければこんなことにはならなかったんじゃないのかと思ったからだ。


「留三郎、もしかして風呂焚きの時に火の粉被ったの、事故だと思ってる?」


「どういうことだ…」


「あれは僕が前もって薪の中に竹を混ぜておいたんだ」


「なん、だと…」


全ては善法寺の策略だった。
そうとも知らず、食満は善法寺の掌の上で間抜けにも踊っていたのだ。


「僕の計算通り、留三郎は来てくれた」


善法寺は両手を広げて言った。
気分が高揚しているようだ。


「ありがとう、留三郎…」


馬鹿だった。
食満は思った。
六年間も一緒に居て、善法寺がどういう人だったのか、全く気づかなかったのだから…。
しかし、今頃そんなことを思ってもどうにかなるということじゃない。
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