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「雷蔵」
「どうしたの?三郎。何それ」
鉢屋は何か白い瓶のような壺のようなものを手に、部屋に入ってきた。
「これは菊酒だ」
「菊酒?」
不破は聞き慣れない言葉に首を傾げた。
中国では昔、奇数は縁起の良い数、『陽の数』とされていた。
そして、陽の数の中で一番大きな数、『9』が重なる九月九日を『重陽』として節句の日としてきた。
『重陽の節句』は『菊の節句』とも呼ばれており、その日は菊の香りを移した菊酒を飲む風習もあった。
「菊酒は邪気を払い、長命を願うものとも言われているんだ」
「へえ…三郎は物知りなんだね」
「ま、まぁな…///」
不破の不意打ちの笑顔に、鉢屋は微かに頬を赤らめた。
「わぁ…菊の良い香り…」
「今日の日を知って、少し前から作っていたんだ」
菊酒を杯に移すと、ふわっと菊の香りが香った。
見た目は普通の日本酒とあまり変わりはない。
「でもどうして急に?」
「菊は明の国で不老長寿の薬とも言われている」
鉢屋は菊酒の入った杯を、顔の前まで持ってくる。
「私は雷蔵と永遠に一緒に居たい」
「人には、永遠というものは無いんだよ…?」
「不老長寿なんて夢の中の話だということは分かっている。永遠などなくとも、人生という長い時を、お前と共に生きたいんだ」
「僕も……僕も、三郎とずっと一緒に居たいな」
不破も自らの杯を顔の前まで持っていった。
そして乾杯した。
「永遠の時を…」
「二人で…」
二人は杯に入った菊酒を一気に飲み干した。
「そうだ…!」
何かを思い立ったのか、不破はいきなり立ち上がる。
「三郎、ちょっと待ってて!」
「あ、あぁ」
不破は急いで、部屋の戸も閉めずに部屋を飛び出した。