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六年は組、用具委員委員長の食満留三郎は一人、机に向かっていた。
食満の回りには紙がくしゃくしゃに丸められて捨てられている。


「自分の思っていることを書くのがこれ程難しいとはな…」


そして筆を置き、腕を組んだ。
そう、食満は文を書いているのだ。
それも、恋文。
恋文を送る相手は同じく六年は組、不運委員と言われている保健委員の委員長…善法寺伊作だ。
しかし、いざ恋文を書こうとすると気恥ずかしさから筆が進まない。
書いては捨て、書いては捨ての繰り返しだ。
お陰で先程から全く進んでいない。


「あ゛ー!」


また紙を丸めた。
善法寺への想いは溢れる程ある。
しかし、それを文にするのはとても難しかった。


「ここは誰かに聞くべきか…」


自分が恋文を書いているなど絶対に知られたくないので、本当はそんなことしたくはなかったのだが、背に腹は変えられないということで、やむなく筆を置いて自室から出た。


「さて、誰かに聞くとは言ったものの…誰に聞けば良いのか見当がつかないな……」


食満は少しの間、考えた。
すると、廊下の端を誰かが行き去ったのが目に入ったので、『誰か』を追いかけた。


「おーい、仙蔵!」


『誰か』とは、六年い組、作法委員会委員長の立花仙蔵だった。
名前を呼ばれた立花は食満を振り返る。
振り返る姿は見返り美人の様だった。
男にしておくのは少し勿体無いとまで感じさせる。


「私に何か用か?」


「ぁ、嗚呼…ちょっと聞きたい事があってな」


食満は目を泳がせる。


「留三郎が私に聞きたい事とは、珍しいな。で、一体何が聞きたいんだ?」


「いや、その…」


「はっきり言え」


ここまで来てしまった以上、後戻りは出来ない。
食満は腹をくくった。


「こ、恋文って、何を書けば良いんだ?」


(言ってしまった……)


今更になって食満に後悔の波が押し寄せた。
しかし、もう後の祭りだ。


「恋文?書くのか?」


(聞くな!)


「ぁ、ぁ、嗚呼……まぁな」


「誰に?」


「まぁ、それは良いじゃないか」


食満の笑みはひきつっていた。
聞く人を誤ったと食満は感じていた。
立花は頭やルックスは良いが、性格の方が……と、食満は常々思っている。


「私は恋文を書くより直接伝える派だからな……よく分からない」


(じゃぁ何で誰に書くのか聞いたんだ!)


と、食満は心の内で毒づいた。
そして脱力しながら立花と別れ、他の人を求めて忍術学園内をぶらぶらしていた。
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