灼眼

□外れた世界
2ページ/5ページ



「ぎえっ、あ?」

振動に揺れる、そのつぶらに描かれてた巨大な眼が、とある物を見つけ、驚きに目を開かれる。

地面に、自分の足が一本、膝から下だけ残って立っていた。

少女が膝元に潜り込んだとき、神速、支えとなる足を一本、叩き斬っていたのだ。

足が、すぐに薄白い火花となって散る。

そして、もう一人の少女は、いつのまにか少女と同じみたいに、髪と目が蒼色になって少女の隣に立った。

その火花の向こうから、少女達が地に倒れた彼(?)を傲然と見下していた。

火の粉を撒いてなびく長い髪と同じ、灼熱と灼蒼の輝きを点した、二つの瞳で。

「え、え、炎髪と蒼髪と、灼眼・蒼眼・・・・・・!」

驚愕に震える声が、人形の口からもれた。自分が、最悪の分類に入る敵に喧嘩を売られたのだと、ようやく気付いたのだ。

少女達は、自分の身の丈ほどもある刀・鎌を右手だけで、その重さを感じさせることなく簡単に振りかぶる。倒れた人形に向けて歩き出す、その一歩ごとに髪から舞い散ってゆく。

殺伐の美に満ちたこの光景を、悠二は身動きすることも忘れて見入る。

その終わりは呆気ない。

「う、うああ・・・・・・っ」

何か言いかけてもがいた人形の頭部を、少女達は無造作に片手斬りで両断した。



人形が薄白い火花を弾けさせ消滅してから数秒、ようやく少女達は悠二の方を見た。刀・鎌を左手に下げてゆっくり歩いてくる。

まだ路面に座り込んでいた悠二は、初めて少女達を観察することができた。

今までの異常な状況と圧倒的な存在感で気づかなかったが、少女達の背丈は百四十センチ前後。自分が立てば、その胸しかないだろう。年もせいぜい十一、二というところだった。だだしその整った顔立はあどけなさが微塵も感じられない。無表情だが、それは梗(無かったので)直の類ではなく、強い意志によって引き諦められたものだと、一目でわかる。凛々しい、と表現できる顔を、悠二は生まれて初めて見たような気がした。つなぎのような皮の上下と黒寂びたコート、物騒極まりない抜き身の刀・鎌さえ、彼女たちには相応しく思える。

そしてなによりも印象的なのは、焼けた鉄と空が全体の蒼のように灼熱と灼蒼の赤と蒼を点す、瞳と髪。

その、幻想的と言うには、あまりに強烈過ぎる姿が、悠二の目の前にそびえる。

「・・・・・・あ、その・・・・・・ありがとう」

悠二は、我ながら芸がない、と思いつつ礼を言った。実際、格好をつけても様にならない状況である。

しかし少女達は、その悠二の声を全く無視して、言う。

「ふーん、コレ≪ミステス≫ね?」

「これがミステスですか・・・(だとしたら、こいつは零時迷子の可能性がある)」

「・・・・・・?」

その、返答ではなさそうな言葉の意味を悠二が訊く前に、少女の胸元から、さっきも聞こえた男の声が答える。

「うむ」

少女の胸元にはペンダンド、もう一人の少女は手にブレスネットが下げられていた。

銀の鎖を繋いだ、指先大の黒く澱んだ球と、金の鎖を繋いだ大きい十字架と小さな十字架。その周りを金色と銀色のリングが二つ、交叉する形でかけられている。優美な美術品のようでもあり、精巧な機械のようでもある。

どのように仕組みなのか、男の声は、そのペンダンドの中から出ているらしかった。

「封絶の中でも動けるとは、よほど特異な代物を蔵しているのだろ・・・・・・」

不意に悠二の背後

少女達に蹴り潰されて地面に埋まっていた首玉が、砲弾のように彼らに向けられて飛んでいた。

「え」

振り向こうとした悠二の鼻先を掠めるように、

「っ!?」

少女達の強烈な前蹴りが打ち出される。真反対からの、強烈な刺突を受けた首玉は、あらぬ方向へと弾き飛ばされた。そばのレストランを砕いて、まためりこむ。

少女達は、蹴りの反動で路面に刺さったマント(?)を抜くと、濛々と土煙を上げるレストランに向けて歩き出す。

動揺していた悠二は、取り残される恐怖から思わず少女達のコートの裾をつかんだが、少女達はすげなくそれを払った。

その、取り残された悠二に向けて、少女達の真反対から人影が飛んでくる。

人影は、悠二の背を狙って手を伸ばす。

少女達が振り返り様、刀・鎌を一閃する。

悠二の頭部すれすれを、横薙ぎの斬撃が通り過ぎる。

これら、四半秒もない流れを経て、悠二が気付けば、誰かの悲鳴が上がっていた。

「っぐぎ!」

背後で、誰かが路面に落ちた。

振り向いた悠二の目の前に、女性ものらしい、切り落とされた腕が転がっていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ