灼眼

□外れた世界
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それは、日常から、わずか五分の距離。

そして、そこから外れた長い道の、始まり。


凄まじい重さと勢いを持った、小さな何者かが落下してくる。

その落下の先端である爪先が、首玉の頂点に打ち込まれた。

「っぎ、ごぉ!?」

首玉持つ口、全身の小さなもの、真中の大きなもの、それからから一斉に、圧倒への絶叫が上がった。

あまりの踏みつけの圧力に、首玉は半ば以上を砕けた路面にめりこませる。

何者達かは、着地と打撃を兼ねた一撃の力を、細くしなやかな足を曲げて溜め、さらにとび。

今度の先端は、鋭く輝く、刃と。

悠二を口の中に放り込もうとした人形が、がちん、と空気だけを噛んだ。

「っ!?」

人形がふと見れば、目の前に今食おうとしていた獲物が、ぐるぐると宙を舞っている。

自分の腕ごと。

「―――っ」

すっぱりと、肘から先を断ち切られた、自分の腕ごと。

「っうぎゃああああああああ!!」

片腕をいつしか失っていた人形人形の叫び、よろめく。斬られた断面からは、血ではなく薄白い

「うぐ!!」

自分をつかんでいた巨腕がクッションなっていたためか、さほどの衝撃はなかったが、それでも二、三メートルは落下している。

悠二は息を詰まらせて、そのまま地面に突っ伏した。

目の前で、切り落とされた巨腕が薄白い火花となって散る。

目眩を紛らす、その光の薄れた後に、悠二は見出す。

「(・・・・・・誰・・・・・・?)」

自分と人形の間に屹立する、小さな、しかし力に満ちた、背中を。

焼けた鉄と空のように灼熱と蒼の赤と蒼を点す長い髪が、マントのような黒寂びたコートが、着地の余韻になびき、揺れていた。

コートの袖先から覗く可憐な指が、戦慄の美を流す、大きな刀と鎌を握っている。

少女達、らしい。

灼熱と灼蒼の赤と蒼を点す、しかし柔らかな質感を持つ髪が、ゆっくりと地に引かれ、腰の下まで伸びる。

その動きに取り残されるように、赤い火の粉と蒼火の粉がちった。

悠二は、周りの状況も、置かれた立場も忘れて見入った。

火の粉を舞い咲かせて屹立する、灼熱と灼蒼の髪の少女を。

圧迫的な存在感だった。

その向こうで、口を耳まで裂いて叫ぶ巨大な人形など、ただのただの背景に過ぎなかった。

「「どう、アラストール・シャルナトール」」

不意に、背を向けたままの少女達が言った。凛としたしかしどこか幼さを残したこの声に、「「徒ではない。いずれも、ただの燐子だ」」

と姿の見えない誰かが答えた。こちらは遠雷のように重く低い響きを持った、男の声。

「うわぁぁあぁ!よくも、僕の腕をを!!」

その会話を遮るように、人形が鼓膜を引っかくような絶叫をあげる。残った宙に振りかざし、握り拳を作った。

もう一人の少女はそれを黙って様子を腕を組みながら少女の様子を黙って見ている。

「・・・・・・」

少女はそれを軽く見上げると同時に右手を振って、刀の切っ先を鋭く後ろに流す。その背後の路面にへこんでる悠二の、側頭部ギリギリで刀の峰が止まる。

「――っ!」

悠二が息を詰めた、そのときには既に、少女の体は振った方向に思い切り捻られて、左手が柄の端に握っていた。刀身を右の奥から振り抜くための構え。

人形の、頭身が低い分だけ巨大な握り拳が、少女を叩き潰さんと降ってくる。

「潰れちゃえ―――!!」

突然もう一人の少女が言い出した、もう決着が決まってるような言い方を。
「無駄な事を・・・」

その拳の斬道が予定の半分も行かない間に、少女は人形の膝元に踏み込んでいた。

もう刀は振り抜かれている。

少女はその振り抜いた勢いのまま体を九十度回し、人形の真横へと後ろ跳びに下がる。

「!?」

人形の拳の斬道が突然狂った。腕は出鱈目な方向に振られ、人形はその勢いでひっくり返った。自重で、顔を路面に激突される。人形は、わけが分からない。
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