□君を奪う物語1
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 マユリに「好きだ」と告白されてから、一週間が経った。

 私はまだ自分の気持ちに踏ん切りをつけずに居て「返事はいつでもいい」という言葉に甘えている。

 今まで友人として接してきたマユリを男として見るなんて、できない。
 でも、そんなマユリの言動にときめいている自分もいるわけで……。

 私がマユリをどう思っているのか、一週間考ても分からなかった。

 答えも出ていないのに会えるわけがなくて。

 結果としてマユリを避けてしまっている。

 逃げているのだ。

 現実から。理解できない、自分の感情から。

「名無しさん隊長」

 顔を上げれば新任の副隊長が書類を抱えて立っていた。

「十三番隊からの意願書です。目を通して欲しいと」
「ああ。うん。ありがとう。置いといて」

 デスクには積み重なった書類。

 隊長になってまだ二週間と日は浅いけれど、言い訳にはならない。
 死んだ前隊長のためにも、がんばらないと。
 託してくれたんだから……。

 しかし、筆を取っても考えるのはマユリのこと。

 仕事に集中できない……。

「うーん」 「体調でも?」

 不安げな副隊長に首を振る。

「大丈夫」「でも全然片付いてないですし…」

「ごめん…」

「いえ、そういう意味では」と慌てる子犬みたいな副隊長。それでいて頼りがいがあって、自分より隊長に向いているのでは、と変なことを思ってしまう。

 そうとう疲れてるな、私。

「ちょっと息抜きに散歩してくるよ。」「分かりました」

 逃げるように十四番隊の執務室を出た。

 私って、逃げてばかりだなあ。
 
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