Novel 純情ロマンチカ・世界一初恋

□遠まわしのワガママ
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いつものように俺が食器を洗っていたら、ウサギさんがまた後ろから抱きついてきた。

「ウサギさん、邪魔だってば!
食器落としたらどうすんだよ」
ここの家にある食器類は何やらムダに高そうなものが多いので、気が抜けない。
…まぁ、実際ウサギさんは壊しても特に気にしなさそうだけど(っつーか前に耐熱グラスじゃないグラスに熱いコーヒー入れようとして2度も割った)、やっぱもったいないし。

「今までこうしていてもお前が割った事は無いだろう?
それに今は美咲の充電中だから無理だな」
「はぁ!?
なんだよそれ…って、だから更にくっつくなー!!」


もはや日常のひとコマと化しつつあるやり取りをしながら、いつもより少し気をつけながら皿を洗って、シンクに並べていく。
結局一枚も割る事無く皿洗いを終えると、俺に抱きついてるウサギさんの腕に、さっきよりも力が込められる。



「よし、終わったな」
「ちょ、待て、まだ俺やんなきゃなんない事が…」
「洗濯物は夕方に取り込んで畳んでいたし、掃除も終えているし、俺が頼んでいるまりもや鰻の世話も終えているし、明日確か講習もバイトも無いと言っていたな。
という訳で、いま急いで片づけなければならない仕事は無いはずだな?」
(働き者の俺のバカ!!!)
ニヤリと自信たっぷりにそう言ってくるウサギさんに言い返したいのに、言い返す材料がなくて、結局心の中で自分に叫ぶしかない。
すると、ウサギさんは更に笑みを深くする。


「最近ゆっくりこうして触れられていなかったんだから、素直に俺に愛されてろよ」
「は!?
だから、なんで毎回毎回そーゆー恥ずかしい言葉が出てくんだよ!?」
「俺は思っていることをそのまま言っているだけだが?」
「だから、そーゆーのが…」
「―――俺にそう言う事を言われるたびに赤くなるところが可愛い、と思うこととか?」
「な・・・!」
振り返ろうとした俺の耳に、少し背をかがめたウサギさんの口付けが降りてくる。

「!!」
途端に、顔どころか耳まで熱を持っていくのを感じる。
ウサギさんはやっぱり余裕たっぷりにクスクスと笑って、『可愛い』と耳元で囁いてくる。

「可愛い」
「…るせー…っ」
言い返す声に、さっきよりも力が入っていないことに気付いてるけど、必死に気付かないフリをする。



ちゅ、とわざと音を立ててウサギさんがもう一度キスをしてくる。
体が思わずびく、と震えて、少し抵抗する力が抜けたところでウサギさんが俺をソファまで引っ張っていく。



そうして、ソファに座るウサギさんに、膝に乗せられるように、後ろから抱き締められたまま座らされる。


「い、いいかげん放せって」
「嫌だ」
「おいコラ、このバカウサ…!」

言いかけた憎まれ口が、止まる。
俺を抱きしめてくるウサギさんの腕がすごく優しくて、振り返ろうとして見えたウサギさんの顔が、なんだかとても嬉しそうだったから。


「な…なんだよ、そんな嬉しそうに……」
「美咲といるからだよ」
「は!?
し、知らねーし…」
「いいかげん素直になれよ」
「う、うるさい…っ!」

抱き締められてる背中から、ウサギさんの心臓の音が伝わる。
クスクス笑うたび、息をするたび、首元にかかる息の感触がくすぐったい。
抱き締める腕に込められてる力は、本当は俺が本気で逃げようとすれば逃げられるくらいの力しか込められていなくて、包み込むようにやさしく触れてくる。


ずるい、と思うのに。
悔しいのに、なんだかすごく幸せで。
なのに…なんか、すごく今幸せなのに、幸せだと思ったからなのか、突然にウサギ父に言われた言葉が頭を過ぎる。


『君はひどく困った存在だね』
思い出すたび、頭に、胸に、ずしりと重く圧し掛かるその言葉。

誰にも迷惑をかけないように、かけたくないって、ずっとそう思ってるのに、思ってきたのに。
それ、なのに―――…


「……美咲?」
「へ?   あ…なに、ウサギさん」
「…いや」
気付かせちゃったかな。
ウサギさんは、俺がヘコんでる時とか、『どうして』って不思議になるくらい気付いてしまうから。
ウサギさんが、さっきまで緩めていた腕に込める力を再び強くする。
何があっても放さないって、言葉にしないで伝えようとしてくるみたいに。


だから、ぎゅ、と俺にまわされているウサギさんの腕を掴んだ。
でも、さすがに思ってたことそのままは言えないから。


「………なんか、ウサギさんってさ、ほんとにウサギみたいだよね」
「?
どうした、突然」
「あ、や、なんか…肌白いし、徹夜してる時とか目真っ赤だし……なんつーか、すげー寂しがりだし」
「……………」
「あ、いや、ゴメン、気にしないで……」
「―――美咲」

このままこうしてると気付かれそうで、そしたらまた心配かけそうで、思わず離れようとした瞬間、俺の言葉を遮るようにウサギさんが俺の名前を呼んだ。
そして、突然向き合うように振り向かされて驚いているまま、ウサギさんにキスされた。
いつもみたいに強引じゃなくて、なんだかすごく……やさしいキス。


「…そうだな」
「?」
「俺は美咲がいないと孤独死するから、ずっと傍にいてくれないと俺が困る」
「な…んだよ、それ……」
「言ったそのままの意味だよ」

いつもの憎まれ口が、うまく出てこない。
気付いて欲しくて、でも言えなくて、遠まわしに言ったワガママ。
『……なんつーか、すげー寂しがりだし』

――ーだから、寂しくないように、これからもウサギさんと一緒にいてもいい?

言いたくて、言えなくて。
でも、気付いてくれて、そうして素直に言えない俺のこともわかってて、そうして『傍にいろ』って言ってくれた。



もう一度、優しくキスが落ちてくる。
「―――好きだよ、美咲」
「…!」

『俺も、ウサギさんのこと好きだよ』って、やっぱりまだウサギさんみたくさらっと言う事なんて出来なくて。
言えないけど、少しでも伝わるように、いつもより少しだけ素直になろうと思うから、俺からも抱き返して、ウサギさんの服をぎゅっと掴んで、その広い胸に顔を埋めてみる。


「今日はずいぶんと積極的だな、美咲?」
「そ、そんなんじゃ…!」
「わかってるよ」
髪をさらりと梳くように撫でられて、宥めるように背中をさする腕までもが優しい。


「…バカウサギ……」
「『ウサギさんが好き』って聴こえるぞ」
「知らねー…」

―――あんまり優しくて、悲しくもないのになんだか泣きそうになって。
   きっと気付かれているだろうけど、俺は顔を隠すようにそのままウサギさんの胸に顔を埋めていて、そうしている間、ウサギさんはずっと優しく頭を撫でてくれていて、余計に泣きそうになって、俺はしばらく顔を上げる事ができなかった。





後書き
『ウサギさんって、ほんとにウサギみたいだよね』って美咲に言わせたいと突然思い立って、つらつらと書いてるうちにこんなことに。
なんか美咲が弱くなっちゃってごめんなさい。(汗)
ウサギさんは普段はアレですが(笑)、でも基本的には、少なくとも美咲にはすごく包容力があって優しい人だと思うのですよ。
俺様で自分勝手で心配性でヤキモチ焼きで、空回りしてしまう事も多いですけど、美咲はやっぱり心配かけまいとして隠してしまうクセはなかなか抜けないと思うので、ウサギさんにはこんな風に受け止めてあげて欲しいな、と。
本当、最近この二人が好きすぎる…。
たぶんあと一つか二つは話書きます。
ロマ組大好き!!

ではでは、気に入っていただけることを祈りつつ・・・。




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