短編
□バレンタイン企画
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1.兄、覚悟を決める
銀時視点
雪斗は隠しているみたいだが俺は知っている。だって雪斗から少し甘いチョコレートの匂いがするからだ。
何でかはすぐに分かる。何故なら、もうすぐバレンタインデーだからな!
俺はジャンプを読むふりをして雪斗がいる台所へ視線を向けた。
世間じゃあ、バレンタインに逆チョコを贈るのが流行っているのか、雪斗は手作りチョコを作っている。
てか、俺は雪斗が誰にチョコをやるのか気になってしかたねぇーんだよ!俺の大事な雪斗が知らねぇ女の子に頬を赤く染めてチョコを渡す所を想像するだけでもイライラする。
昔は可愛い笑顔で(今もそうだけどな)俺に抱きついて“お兄ちゃん、だいすき"って言ってくれたのに…今じゃあ、知らないヤローにチョコの為に作っているからお兄ちゃんは悲しいたらありゃしない。
「兄さん」
すると台所からエプロン姿の雪斗が顔を出した。
「ど、どーした雪斗?」
「兄さんこそ、何で挙動不審になっているんですか?」
「な、何でもねーよ!」
そうですか?と首を傾ける雪斗。…可愛いなぁチクショー。
「それより兄さん、チョコマフィンの味見してくれませんか?」
チョコマフィン?
はっ、さっき作っていたのはチョコマフィンだったとするなら…まさか!
「…お前が作ったのか?」
「ええ、そうですけど。兄さん、甘いものには詳しいので参考にと思いまして」
「………そうか」
視界が何か滲むが雪斗に悟られないように視線をそらした。
いつも傍にいた雪斗がいつかは俺のもとから離れて好きな奴と一緒に来る日が必ず訪れる。
そうだ、雪斗だってもうガキじゃねーんだ。
それに弟の幸せを素直に祝うのが兄貴の役目じゃねーか。
俺は雪斗からチョコマフィンを奪い取り、ガツガツとチョコマフィンを食べた。
「うめぇよ」
「そうですか。良かったぁ…」
「なあ、雪斗」
「何ですか?」
「……幸せになれよ」
「はぁ?」
雪斗はきょとんとした表情で俺をじっと見てくる。
「ど、どうしたんですか兄さん!頭打ったんですか!?」
「頭なんか打ってねーよ。雪斗、ちゃんと彼女さんに渡せよ」
「(え、彼女って何のことだろう?)ちょっと、大丈夫なんですか?なんか今日の兄さん、おかしいですよ!?」
「雪斗、兄ちゃんはお前が幸せなら嬉しいからな」
これで良いんだ。雪斗が幸せなら俺はそれで良いんだ。
あれほど大切に育てていたからよけい辛いが雪斗が幸せなら笑顔で笑ってやる。
俺は堪えきれない気持ちを押さえるようにその場から立ち去った。
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