aoex(燐受け)

□その一言が
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部屋を飛び出した後。
俺には行く当てもないことに気付き、そのまま寮の屋上へと移動した。
風に当たれば少しは頭が冷えるかもと考えながら屋上の扉を開いて一歩踏み出したけど、風は全く吹いていない。
それに嘆息しながら、真っ暗な中、俺は体育座りをして扉に寄りかかり、空を見上げた。


「…なんだよ、あいつ」


小さく、呟く。
悪いのは確かに俺だ、それは間違いない。
でも、あんな風に言われたら謝るに謝れないじゃねぇか、なんか負けたような気がして兄ちゃんとしてのプライドが許さねぇんだよ。


「あ…そういや今日は任務って…」


久しぶりに一緒に晩ご飯を食べている時、今日はこの後任務があると言っていた。
もう行っただろうか?
…あの言い争いの前は仲良く晩ご飯を食べていたのに、何でこうなったんだろ。
俺が、雪男のアイスを勝手に食べたから?
俺が、素直に謝らなかったから?


「…あんなこと言うつもりなかったんだけどな……どっか行っちまえ、なんて」


俺が雪男にあんなことを言われたら、きっと恥も外聞もなく涙を流してしまうだろう。
たった一人の家族にそんなこと言われたら…そう考えただけで、身震いしてしまう。
後悔ばかりが俺を襲う。


「……明日、謝ろう」


意地を張っていたって何も始まらないし、雪男が言っていた通り、これは俺が素直に謝れば済むことなんだ。
俺が謝れば、雪男とも仲直りできる。

そう信じ、俺は自分の部屋へと向かった。
部屋に戻ると雪男の姿はもうなく、祓魔師のコートもなくなっていたから、きっと任務に行ってしまったんだろう。
俺は部屋で一人、静かに眠りに就いた。





夜中、携帯の着信音で目が覚めた。
時計を確認したら、午前3時。
起きるには早く、まだ寝ていたかったから着信なんて無視しちまえと思って布団に潜ったけど、あまりにも鳴り続けるもんだから仕方なく通話ボタンをぽちり。


「んだよ、こんな夜中に…誰だ?」
『グッドモーニング、奥村くん☆』
「メフィストか…」


電話は、外も真っ暗な丑三つ時だというのに無駄に元気のいい、正十字騎士團日本支部長のメフィストだった。


「何か用か?俺まだ眠いんだけど」


言いながらごろりと寝返りを打つと、雪男のベッドは昨日と同じ状態でそこにあった。
…嫌な予感がする。


『寝るのは大いに結構!!ただし、私の話が終わってからです』
「…話ってなんだ」
『おや、急に話を聞く気になりましたね。もしかして、気が付きました?』
「おい、もったいぶらずに早く話せ!!」
『そう急かさないでくださいよ』


楽しそうなメフィストの姿が電話越しでも想像できて、段々と苛ついてくる。


「メフィスト!!」
『はいはい、まったく…』
「何でこんな夜中に電話してきた?」
『奥村先生のことです』
「っあいつに何があった!?」
『ちょっと落ち着いて、まずは私の話を聞きなさい。はい、深呼吸、深呼吸』


メフィストの言った通りだと思い、俺は大人しく深呼吸をして自分を落ち着かせる。


『…奥村先生が任務中に怪我を負いました。それも、かなり重傷です』
「は?怪我…重傷…?」


頭が混乱する。
雪男が、怪我して、しかも重傷で。
でも、だって、さっきまで普通だったじゃないか、元気だったじゃないか。


「…死ぬ…?雪男が、死ぬ…のか…?」
『落ち着きなさいと言っているでしょう。大丈夫です、死にはしません。ただ、相当弱ってはいます』
「ほんとか!?ほんとに大丈夫なんだな!?」
『そこまで気になるのなら、どうぞ自分の目で確認しなさい。そのために私は電話したのですから』


そうして、俺はメフィストから雪男のいる病院名と病室を聞いた。
まだ話の途中だったけど、俺はいてもたってもいられず、通話を切って走り出した。
目的地は、雪男のいる病室だ。


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