aoex(燐受け)

□俺の思い通り
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ここで、上目遣い。


「なぁ、おかしくねーか?」
「な、何が?」
「勝呂な、今雪男と任務に行ってるはずなんだよ。しかも、朝早くから」
「え…」


志摩の顔が段々と青ざめていく。


「候補生を1人連れて行く予定で、雪男は勝呂を選んでたんだ」


きっと知らなかったんだろう。
それもそっか、他の奴らには伏せとくってことで話が進んでたみてぇだし。
ま、集合場所が旧男子寮だったから俺は知ってたんだけどな。


「…その顔の、」
「っ!!」
「勝呂にやられたんだっけ?」
「え…と、その…」


次の言い訳か?
それとも、もう諦めるか?


「…女の子に、やられたんや」
「へー、女の子?」
「っごめん!!」


転がるようにして椅子から離れ、俺の目の前で土下座する志摩。


「俺以外の奴と付き合ってたのか?」
「も、もうせぇへんから!!」
「この前もそう言ってたよな?」


そう、これが初めてじゃなかった。
このやり取りはもう何度かしてて、その度に志摩は反省して、でもまた繰り返して。


「今度はほんとやって!!信じてぇな!!」
「信じて、ねぇ…」


志摩のことは正直信じてはいない。
どうせまた繰り返すことは分かってんだ。
でも、それでも。
俺が志摩を手放すことができなくて。


「志摩は、俺のこと好き?」
「すっ好きに決まってるやん!!」
「どんくらい?」
「両手では足りんっ、全身使ても足りひんくらい、奥村くんのことが好きやねん!!」
「…ふーん、そう」


やばい、嬉しい。
志摩はきっと俺に捨てられないよう必死なだけなんだろうけど、こういう言葉は普段言われないからすげぇ心に響く。


「なら、もう他の女のとこなんて行かねーよな?」
「絶対行かへんっ!!」
「…その言葉、忘れんなよ」


実を言うとこのやり取りも初めてじゃないんだけど。


「…許してくれるん?」
「許されたくないなら許さねぇけど」
「あああかん!!許してぇな!!」
「今回が最後だからな。次はない」
「おん、分かっとる」


漸く志摩の顔に笑みが戻った。
ほんと、現金な奴。
俺が許す素振りを見せたらすぐこれだ。


「なぁなぁ、奥村くんは俺んこと、どんくらい好きなん?」
「こんくらい」


右手の親指と人差し指で円を作る。


「ちょっ、ちっちゃ!!」
「お前は何だっけ、全身使っても足りないくらい?」
「せやなぁ、それでもまだまだ足りひんわ」


…くっそ、そういうことさらっと言うなよ、嫌味のつもりだったのに。
嬉しそうな笑顔でそんなこと言われたら恥ずかしいじゃねーか、顔があちぃ…。


「奥村くんがそんくらいでも、俺が好きやったらそれでええんよ」
「…勝手に決めつけんな」
「え?」
「……おっ俺、だって…その…お前のこと、好きに決まってんだろ!!」
「〜〜っ奥村くん!!」
「おわぁ!?」


さっきまで正座したままだった志摩が、いきなり俺に向かって飛び付いてきて、そのままベッドに押し倒しやがった。


「ちょ、何だよ!?」
「やっぱ奥村くん可愛らしいわぁ」
「はぁ?どこをどう見たらこんな格好いい奴に向かって可愛いとか言えんだよっ」
「格好いいは俺担当やから、奥村くんは可愛いでええんよ」
「よくねぇよ!!」


キスしようとしてきやがったから拒もうとするけど、嬉しいことには変わりなくて。
結局は受け入れちまうんだ。

でもさ、知ってるか?
お前が女と付き合う度にフラれる理由。
俺がそいつんとこ行って、お前がそれとは別の女と仲良さげに歩いてる写真見せてやってんだよ、そりゃフラれるよな。
そうして、お前は俺を求めるんだ。
奥村くん俺を捨てんといて――そんな顔をして、縋るように俺を見つめて。


「…奥村くん、ずっと俺とおってな?もう浮気なんかせぇへんから」
「とか言って、ぜってぇするくせに」
「男に二言はあらへんって!!」
「じゃ、志摩が俺といるならいてやるよ」


こうやって、志摩にはもう俺だけだってことを教えてやるんだ。
俺はお前を逃がすつもりなんかねぇから。



◇おわり◇

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