aoex(雪受け)
□友人は寂しがり屋
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「勝呂くんは大丈夫ですよ。僕と違って、社交的だと思いますから」
社交的?俺が?
何を見てから言うとるんや、そういうんは志摩なんかのことを言うんやろうが。
誰にでも話し掛けていくん奴のことを。
(この見た目んせいで俺はほんまに友達ができにくいゆうんに…腹立つ)
俺んこと何も知らへんくせに。
自分やって、女にモテて男に頼りにされて、人気者のくせしよってからに。
「社交的なんは先生の方やないですか。それとも、それは俺への当てつけですか?」
さっきまでの雰囲気を壊すくらい、低い声を出してしもうた。
苛立ちが抑えられんやったんや。
案の定、奥村先生は俺のその態度の変化に目を見開いた。
「いえ、そんなつもりは…」
「だってそうですやんか。先生は男女問わず人気者、十分社交的やないですか」
「え、と…」
「俺は元から目つき悪うて誰も寄ってこようとせぇへんですし、地元では祟り寺の子ぉ言うて扱いが酷かった。それやのに、俺が社交的?逆や、俺は誰かと必要以上に仲良うなろうとは思ってへんのです」
つい、勢いで言ってしもうた。
やけどこれが本心やし、今まで誰にも言うたことないもんやった。
家の事情で周りは何かと俺のことを慕い、優先させてくれる奴ばっかやったから、弱音や愚痴なんそうそう吐けへん。
それが、こないなとこでぶちまけることになるとは想像もしてへんかった。
(奥村先生には悪いことしてしもたな…)
先生は軽い気持ちで言うたんかもしれん、なんに俺はまるで先生を責めるように言うてしもて…俺んことどう思ったやろ。
(あかん、顔上げられへん)
「……勝呂くん、顔を上げてください」
まるで心を読んだようなタイミングに、俺はゆっくりと顔を上げた。
そして、先生を見る。
(…何で、)
「何で、先生が泣きそうなんや…」
口をついて出た言葉。
先生は泣くのを我慢するように、唇をぎゅっと噛みしめとった。
いや、少し涙が滲んどる。
「すみません、僕のせいで…僕の安易な一言のせいで、勝呂くん…」
なんや、何が起こっとるんや?
さっきまで楽しく話しとって、でも先生の社交的いう言葉になんやカチンときて、勢いで言葉ぶつけてしもうて、それから。
それから…何で、先生が泣きそうなんや?
「勝呂くんが怒っているのは僕のせいですよね、本当にすみません…すみま、せん」
ぽろり、先生の頬に涙が一筋伝った。
俺はそん様子を、呆然と見とることしかできへんかった。
「そういうつもりじゃ、なかったんです、ただ…僕は、その、」
「あの、先生…」
その時、ハッと気付いた。
ここが学校の教室やということに。
周りに気付かれへんようにしながらも慌てて教室内を見てみたら、何人かがこちらに関心を向けとるようやった。
泣きよる先生を見て心配そうな視線向けとる奴もおれば、何でか興奮しとる奴もおる。
(…このままここにはおれんな)
そう判断を下した俺は、先生の右腕を掴み、足早に教室を出る。
「ちょ、勝呂くん!?」
「先生は黙っとってください」
とにかく教室を出んといかん、それだけを頭に、先生を引っ張って教室を出た。
わけも分からず引っ張られるだけの先生には悪いけど、こないな顔、先生やって誰にも見せとうないはずや。
「あの、勝呂くん。どこへ…?」
「…塾の教室がええな」
「え?」
不思議そうな先生の目は、赤い。
(俺が泣かせてしもたんよな…堪忍な)
適当にドアを見つけ、いつも持ち歩いとる塾への鍵をそこへ差し込んだ。
ドアを開けると、教室とは雰囲気がまるで違う、祓魔塾へと繋がった。
足を踏み入れ、手前の教室に入る。
「…何故、ここへ?」
「先生が泣いとるからです」
「別に、泣いてなんか…」
「気付いてへんのですか?…これ」
目元の雫を掬うと、泣いとることに今気付いたいう風な反応をした先生。
なんや、ほんまに気付いてへんかったんか。
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