aoex(連載)

□哀別
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side.燐


「もう卒業だね」
「そーだなー」
「何、その適当な返事」
「いや…学校サボってばっかだったしさ、卒業っていっても実感ねぇし」
「学校行ってない兄さんのせいでしょ」
「俺だってなぁ、好きで学校行ってなかったわけじゃねーんだよ」
「ふ、そうだね。バカだったからだよね」
「違ぇし!!つかバカって言うなっ」


明日、俺と雪男は卒業する。
そんなにお世話になってない中学校を卒業することは、別にどうってことはない。
あまりいい思い出のない中学生活だったし、卒業できて清々するくらいだ。
ただ、問題は。


「はぁ…これで兄さんと一緒に学校行くのも終わるのか」


そう、これだ。
中学校を卒業したら、雪男は正十字学園に入学することが決まっている。
正十字学園は全寮制。
それはつまり、もうすぐ雪男と離れ離れになるということだ。


「…そう、だな」
「兄さんは、僕がいなくて大丈夫?」
「は!?おっお前なんていなくてもやっていけるに決まってんだろ!?」
「吃ってるよ?」
「うぅ…」


正直言って、やっていける自信はない。
今までは雪男がいたから、何でもやれたし何でも耐えられたんだ。
喧嘩したら、雪男が手当てをしてくれた。
学校で先生に怒られたら、雪男が話を聞いて慰めてくれた。
いつもいつも、俺の隣には雪男がいた。


「……不安に、決まってんだろ」
「兄さん…」


ポロリと出た本音。
雪男がいなくなることは今までなかったことで、考えただけで不安になる。
だからといってそれを弟に知られるわけにはいかないんだ、兄ちゃんとして。


「お前が高校でちゃんとやっていけるか、兄ちゃんは不安で仕方ねーんだ!!」


そう誤魔化した。
強がりだって自分でも分かってるけど、雪男には心配事なんてないまま卒業して、ここを出て行ってもらいたいんだ。


「…はぁ、兄さんはやっぱり兄さんだね」
「は?」


溜め息混じりに言われ、俺は間抜けな声を出してしまった。


「僕の心配ばっかり。もう泣き虫で弱虫な僕じゃないんだよ?ちゃんとやっていける」
「そ、そっか。そうだよな…」


雪男は、強くなった。
こいつの言う通り、もう泣き虫だった雪男はどこにもいないんだ。
俺がいなくてもきっとやっていける。


「あ、明日はちゃんと学校来てよ?最後くらい一緒に行こうよ」


最後――分かっていたとはいえ、その言葉に俺の胸には寂しさが募った。
…ニコリと微笑んで言われたら、行かないわけにはいかねぇじゃん。


「……おぅ、しょうがないからお前と一緒に行ってやるよ」
「ふふ、何その言い方。兄さんこそ僕と行きたいんじゃないの?」
「うっせー!!」


ほんとにこいつ可愛くない!!
俺が恥ずかしいのを隠しながら言ってるっていうのに、そんな風に言いやがってよぉ。


「そんなに言うなら行かねぇからな!?」
「とか言って、どうせ僕と行くでしょ?」
「うぐ…」


その通りだから何も言えない。
もうやだこいつ。


「卒業式は明日だからね?勝手にふらふら出て行かないでよね?」
「わぁってるよ!!」





そうして、俺達は中学校を卒業した。
朝から一緒に行って帰りも一緒に帰って、俺は学校に行ったのも久しぶりだったし雪男と2人だけで行ったのはもっと久しぶりだったから、すごく嬉しかった。
…普通の兄弟はこんな感じなんだろうな。
俺がこんなんだから一緒に学校に行くこともそんなになかったし、久しぶりに並んで歩いた通学路も、今日で通るのは最後だ。


「ねぇ、兄さん」
「んー?」
「卒業おめでとう」
「…お前こそ。卒業おめでとう」


二人きりの帰り道。
会話はそんなになかったけど、それでも居心地が悪いわけじゃない。
この心地よさも、後少しなんだな…。


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