aoex(連載)

□贈物
1ページ/2ページ



side.獅郎


雪男が、この修道院から旅立った。
ここら辺じゃ名門校と名の知れた正十字学園に入学が決まったんだ。
親変わりの俺としては、きちんと成長して旅立っていった姿を見れて嬉しい。


「雪男も立派になりやがって…」
「そうですね。あんなに小さかったのに、いつの間にかもう高校生ですよ」
「雪男くんがいないと寂しくなりますね」
「そうだな…。あとは燐が変わらなければいいんだが…」


そう、問題は燐だ。
燐は雪男に依存しているところがあった。
同い年の奴らから悪魔だ化け物だと罵られ、心を閉ざしかけていた燐を救ったのが、弟である雪男だ。
雪男もなかなかに燐に依存しているところがあるが、燐の方が重い。
何かやらかした時、燐の心の拠り所になっていたのは、雪男の腕の中だった。
雪男が燐を優しく抱き締めていたところを何度か見たことがある。
燐は雪男がいないとダメになるだろう。
その依存が膨れ上がって、多分雪男のことが好きになるとこまでいってるはずだ。
こればっかりはやっかいだな…燐も雪男も悪くないからまた質が悪い。


「…どうしたもんかな」
「お困りのようですね、藤本」
「うぉ!?」


思考に耽っていたら、後ろから声が。
慌てて声のした方を見ると、ピンクの胡散臭い格好をした悪魔が立っていた。


「いきなり現れてんじゃねーよ」
「おや、それはすみません」


こいつ、自分が悪いとかこれっぽっちも思ってねぇな?
いつもこんなだから掴めねんだよ、何考えてるかも分かんねぇし…。


「で?何で急に現れた?」
「あなたを驚かせるためですかね」
「おい」
「冗談ですよ」
「…楽しそうで何よりだな」


俺は溜め息をついた。
こいつの相手は、ガキの頃の燐や雪男よりもやっかいだ。
悪魔は自分勝手だから困る。


「用件は何だよ」
「気になります?」
「いちいちお前は…早く言え」
「そんなに短気じゃモテませんよ?」
「余計なお世話だ!!ったく…もう早く用件を言って帰れ」
「そうですねぇ、不毛なやり取りは時間の無駄でしかありませんし」
「………」
「そんなに睨まないで下さい。…奥村燐と奥村雪男のことです」


その名前に反応せずにはいられなかった。
悪魔ってもんは人が考えたり悩んだりしてることまで分かるのか?
いや、メフィストだからか?


「そいつらが何だよ」
「お困りなのでしょう?」
「…そうだ、と言ったら?」
「助けて差し上げようと思いまして」
「は?」


助ける、って…こいつが?
いつもは傍観して楽しんでんのにか?


「おい、何を企んでる」
「疑問形でもないんですか。私へのイメージが気になるところですが…」
「答えろ」
「心外ですねぇ。友人である藤本が困っているようでしたので、親切心でですよ」
「ほう?」
「燐くんも雪男くんも知らないわけではないですしね」


確かに、メフィストとの話題といえば専ら燐と雪男のことだったから、嫌という程にいろんなことを知ってるはずだ。
俺がいつも浴びせるように燐と雪男の可愛さを言い募ってたからな。
しかも雪男に至っては、小さい頃から祓魔塾に通って今は祓魔師、こいつは上司にあたるから、知らない仲でもないだろう。


「で?その親切な友人は俺に一体何をしてくれるんだ?」
「これを、燐くんに」
「…鍵?」


それは、金色に光る鍵だった。
俺も多くの鍵を所持してるが、この形は初めて見るな…どこの鍵だ?


「雪男くんの部屋が決まりましたので」
「…成る程な」


メフィストの一言で理解する。
この鍵はおそらく、これから雪男が3年間過ごすだろう寮の部屋への直通の鍵だ。


「わざわざ作ってくれたのか、助かる」
「今、燐くんは?」
「買い物に行ってるよ。多分もうすぐ…」


言い終わる前に、玄関の方からただいまーという声が聞こえた。


「…会っていくのか?」
「ええ。この鍵は私から渡しましょう」


俺の手の中にあった鍵をひょいと奪い取り、メフィストはにんまりと笑った。


.

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ