aoex(連載)

□再会
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side.雪男


入学式も終わり、塾講師としての初めての授業も何とかこなせた夕方頃。
僕は一人、寮までの道を歩いていた。

正十字学園は全寮制で、寮に入ったのは数日前、同室の子とは挨拶も済ませてある。
おそらくフェレス卿の意向だろう、僕は祓魔塾で受け持っている生徒と同室だった。
見た目は不良みたいだけど周りを見て判断し気配りのできる、成績優秀な勝呂くん。
ピンクの頭をしてていつもへらへらしてる印象の、人懐こい志摩くん。
優しくて困っていたらさり気なさを装って手伝ってくれる、真面目な三輪くん。
3人は京都の出身で、小さい頃からずっと共にいた、所謂幼馴染みというやつだ。
そんな3人の仲にいきなり飛び込んで、しかも先生という立場だというのに、みんなは僕を温かく迎え入れてくれた。


「ただいま」
「おん、おかえり。お疲れさん」
「お疲れ様です」
「お、若先生のおかえりや!!」
「志摩くん、寮では先生はやめて下さい…」


出会ったのは数日前、でも、塾の講師として向き合ったのは今日が初めてだ。
僕自体、講師の仕事は今日が初めてで、ちゃんとできていたのかは正直気になる。
…ま、それは後から聞けばいいか。


「みなさんはもう夕飯は食べました?」
「いや、奥村の帰りを待っとった。もう行けるか?」
「そうだったんですね、なんかすみません。もう少し待ってください…」
「雪男くん、人に先生はあかん言うなら、雪男くんも敬語やめな。昨日も言うたで?」
「あ…す、すみません」
「敬語」
「ご、ごめん」


塾の生徒だと思うと、どうしても口調が自然と敬語になってしまうからいけない。
せっかく同室になったからと、フランクに接してほしいと言ったのは僕だった。
これからは気を付けないと。


「よし、準備できた。お待たせ」
「なら行こか」
「もう俺お腹空きまくりやわぁ」
「早よ行きましょか、そろそろ志摩さんのお腹もうるさくなるとこやろうから」
「せやせや、早よ行こー」


これが、今の僕の日常。
こんな毎日が続いていくんだろう。

そうだ、兄さんは元気にやってるかな。
また喧嘩してなければいいけど…。
就職先は決まったかな、多分まだだよね。
でも、兄さんには神父さんがついてるし、何とかやってはいけてるはずだ。
兄さんもそこまで馬鹿じゃないし。
それより、僕もちゃんと頑張らないと。


「今日の僕の授業、どうだった?」


まずは感想を聞こう。
祓魔師としては何年かやってきたけど、講師というのは初めてで、まだ手探り状態だ。
生徒からしてみたらどう感じたのか、これが改善のポイントになってくるだろう。


「雪男くんの授業?うーん…説明上手いし手際もええし、完璧なんやない?」
「いや、完璧はないよ」
「要は改善点があるかやろ?直すとこいうたら、取っ付きにくいとこやないか?」
「そうやね。奥村くん、授業や思て固なりすぎやないですか?もっと楽にしたらええと思いますよ」
「楽に、か…」
「奥村は授業は初めてなんやろ?前日から緊張しとったもんな。せやけど、俺らやておるんやから、気楽にやればええ」
「…そっか。分かった、ありがとう」


確かに僕は緊張して固かったかもしれない、初めてに緊張はつきものだ。
でも、勝呂くんの言う通り、知ってる人がいないわけじゃない。
楽に取り組む、これが当面の課題かな?


「ちゅうか、先生いうんはこの前聞いとったけど、雪男くんの今日の姿見てやっと実感わいたって感じやなぁ」
「僕が嘘をついてたとでも?」
「へ?いやっそんなんやないって!!」
「ふふ、分かってますよ」
「やめたってやーそんなん…」
「分からないところがあったら聞いてね、手助けはできるつもりだから」
「頼りにしとるで?」
「僕も頼りにさせたってください」
「あ、俺も俺もー」


夕飯の時間は和やかに進んでいく。
数十分という短い時間だけど、修道院にいた頃に戻ったみたいで楽しい。
3人とのやり取りは面白く、この時間は僕の密かな楽しみだった。
これから3年間、兄さんがいなくても何とか楽しくやっていけそうかな。


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