aoex(連載)

□説明
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side.勝呂


あれから奥村の兄貴いう奴と一言二言喋り、それだけで満足したんか、そいつはもう時間やからと立ち上がった。
金色に輝く不思議な鍵を部屋の扉に差し、躊躇いなく中に入ろうとする。
その入る直前、そいつは「また今度来るわ、じゃあな」と俺達を見て言いよった。

奥村の兄貴について分かったことは、そない多くはない。
奥村燐いう名前、奥村の双子の兄貴やいうこと、今は高校に行きよらんいうこと、あと、悪魔やいうこと。


「…奥村、いろいろ聞きたいことがある」


奥村の兄貴が帰ったことでしんとなりよった部屋に、俺の声が響いた。
奥村が俺の方を向く。


「うん、分かってる。まずは僕達のことから説明していくよ」


言い、奥村が静かに語り始めた。


「僕と兄さんは、さっきも言ったけど二卵性双生児なんだ。小さい頃、孤児だった僕達を養父である藤本獅郎が育ててくれてね」
「藤本獅郎…って、聖騎士のお人やないですか!?なんや名前に聞き覚えある気が…」
「そう、現聖騎士の藤本獅郎。その人が、僕達の養父なんだ」
「現聖騎士が、養父…」
「僕達を引き取ってくれてね。僕達は神父さんに連れられて、南十字男子修道院で今まで育ってきたんだ」


孤児、養父、修道院。
俺は京都でたくさんの人に囲まれて育ったから、どないな生活送ってきたんかとか全く想像できへんかった。
せやけど、大変やったとは思う。


「修道院には修道士として祓魔師の人が何人かいたし、まぁそれなりには過ごせてたよ。ちょっと貧乏だったかな、くらい」


苦笑する奥村。
俺には、何でそない普通に話せるんかが分からんかった。
つらい過去やないんか?


「でも、毎日楽しかった。神父さんがいて、修道士の人がいて、兄さんがいて。わいわい騒いでご飯食べるのとかさ」


…あぁ、修道院での生活は、奥村にとって楽しい思い出なんや。
俺も、京都におった頃は柔造や金造、蝮達、もちろん志摩と子猫丸…たくさんの奴らに囲まれて、いつも楽しかった。
境遇は違ても、俺らと奥村には似たとこがあるんやな。


「ただ…それも、中学に上がるまでだったと思う。さっき本人も言っていたように、兄さんは悪魔なんだ。自分が悪魔と知ったのが中学の頃で、そこから少し荒れちゃって」
「せやけど、奥村くんとお兄さんは双子やないですか。お兄さんだけが悪魔?」
「僕達は悪魔と人間の間に生まれた子だったんだけど、僕は未熟児で。悪魔の力は、兄さんにしか継がれてないんだ」
「…成る程な。せやったら、なして兄貴には祓魔師やってこと言うたらあかんのや?」
「それは…実の弟が悪魔払いをやってるなんて、伝えたくないじゃない?」


悲しそうに言う奥村に、相当な決意をして祓魔師になったいうことが分かる。
一緒に住んどった兄貴に内緒で祓魔師の勉強や実習をこなすんは大変やったはずや。
きっと、いろんなもんを犠牲にして、今の奥村がおるんやろうな。


「神父さんや、他の修道士さん達が祓魔師ってことは知ってるみたい。だけど、兄さんにとっての血縁者って僕だけだから」
「隠しときたいゆうわけやな」
「うん。ごめんね」
「謝る必要なんかあらへん。奥村は奥村の考えがあってそうするんやろが。俺らはそれに付き合うたるだけや」
「勝呂くん…ありがとう」


みんなもありがとう――その言葉は、どういう気持ちで言ったんやろか。
自分1人だけ嘘をついとったんが、これからは俺ら3人も増える…それは奥村にとって、どないな意味を持つんやろう。
さっき、実の兄に悪魔払いしてるんを知られとうない言うてたけど、実の兄に嘘つき続けるんも嫌なはずや。
…やっぱ、奥村先生はすごいお人やな。
そこまでの覚悟、きっと俺にはあらへん。
明陀の次期当主としてしっかりせなあかん思とるけど、奥村には適う気がせぇへんわ。


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