aoex(連載)

□喧嘩
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side.燐


雪男の寮を出て、修道院に戻ってきた。
手元にある金色の鍵を見つめ、次に、自分の部屋の扉に視線を移す。
この扉から、俺は雪男に会いに行ったんだ。





一時間前。
半信半疑で鍵を差し込んでみたはいいけど、知らない部屋に繋がった時は、鍵の効果も忘れて本当に驚いた。


「ど、どこだここ!?」


部屋に一歩踏み出すと、二段ベッドが2つ、目に入った。
どうやら4人部屋らしいと分かった時、さっきのメフィストの言葉を思い出した。
そうか、ここが雪男の部屋か。


「…誰やお前。見たことあらへん顔やな」


聞き慣れないイントネーションに後ろを振り向くと、変な髪型と変な髪の色をした、目つきの悪い男。


「お前、雪男の部屋の奴?」
「…なして奥村ん名前…」
「だって俺、雪男の兄ちゃんだし」
「はぁ?」


怪しい目で見てくる変な男だけど、雪男の手掛かりを掴むにはこいつに頼るしかない。
部屋にはこいつしかいねぇみたいだし。


「なぁなぁ、雪男は?」
「お前みたいな怪しい奴には教えへん」
「だーから、俺は雪男の兄ちゃんだって」
「ほう?ほなら、証拠は?」
「証拠?」


証拠か…何を言ったらこいつは信じてくれるかを考える。
誕生日?身長?体重?血液型?
うんうん唸りながら必死に考える。


「たっだいまー」
「坊、遅なってすみませ……誰です?」


でもその考えてる間に、こいつは卑怯にも仲間を呼びやがったらしい。
ピンク頭と坊主頭が姿を現した。
俺を見てくる2人の視線から逃れるように、トサカ頭をキッと睨む。


「お前、卑怯だぞ!!」
「は?何がや」
「仲間を呼ぶなんて…!!そんなに俺のことが信用できないのかよ!!」
「俺は仲間呼んだ覚えはあらへんけど…いきなり現れよった奴を信用せいなんざ無理な話やろ。そもそもどっから現れてん」
「なぁ、坊。そちら、どなたです?」


ピンク頭が俺を指差す。
おい、人のことを指差したらいけねぇって習わなかったのかよ、失礼な奴だな。
…その考えも、次の一言で吹っ飛んだ。


「ここにおるゆうことは、雪男くんの友達とかやろか?」
「雪男!?お前、雪男知ってんのかっ!?」
「え?えぇ、まぁ…部屋同じやし」


やっぱここは雪男の部屋だったのか…。
それなら話は早い。


「雪男、ここに戻ってくるんだろ?待っててもいいか?」
「いやあかんやろ」
「何でだよ!!」
「せやから、お前怪しいやろが」
「怪しくねぇだろ!!」
「どう見ても怪しいやろ!!」


突っかかってくるのはトサカ頭。
大体、俺のどこが怪しいんだよ、俺は雪男の兄ちゃんだって言ってんじゃねぇか!!
話が全く進まないことにイライラして、ついトサカ頭を睨み付けるように見てしまった。


「俺は雪男の兄ちゃんだってさっきから言ってんだろ!?」
「それが怪しい言うとるんやないか!!」
「ちょお坊、落ち着いて下さいって…ほら、そこの自称雪男くんのお兄さんも」
「自称じゃねぇよ!!事実だっ!!」
「事実言うたかて…仮に、ほんまに兄弟やったとしても、どう見たかて雪男くんのがお兄さんやん」
「うっ…お前、俺が気にしてることを…」
「え、気にしてたん!?」


このピンク頭は失礼な奴だな、最重要思考として覚えておこう。
…ん?思考?…まぁいいや。


「――兄さん!?」


そんなことを考えていたら、急に部屋の扉が開き、目的の人物が現れた。


「あ、雪男!!」


制服とはまた違う、でも俺の記憶にはない見慣れない黒いコートを身に付けた雪男は、俺の姿を見てすっげぇ驚いていた。
俺も、雪男の姿をまじまじと見つめる。
…一週間くらいぶりだったけど、雪男は雪男のままで、安心した。





「それから自己紹介して、ちょっと話してから帰ってきたんだよな」


ほんの少しの時間だったのに、すごく楽しい時間だったと思う。
勝呂に、子猫丸に、志摩。
志摩は失礼な奴だけど、あいつらが傍にいてくれれば雪男も毎日楽しいだろう。


「次はいつ遊びに行こうかなぁ…」


そんなことを考えながら、俺は夕飯の支度に取り掛かった。


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