aoex(雪受け)

□友人は寂しがり屋
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「今日から対悪魔薬学の授業を担当する、奥村雪男です。では、最初から授業もなんですし、お互いに自己紹介でもしましょうか。まずは…勝呂くん」
「はい」


これが、俺達の出会いやった。





今日から学校の授業も始まる。
数日前に始まった祓魔塾と並行していけるか不安やけど、祓魔師なる言うて家を飛び出してきたからには、絶対に両立させたる。
子猫や志摩やっておるんや、あいつらとやっていけば何とかなるやろ。
気に食わへん奴もおるけどな、あの奥村燐とかいう猿。
あれが奥村先生の兄なんぞ誰が信じるんや、10人中10人が信じへんわ。


「おはようございます」


そないなことを考えとったら、いきなり声を掛けられた。
この容姿のせいで俺は昔から女子からは怖がられ、男子からも進んで話し掛けられることはあらへんかったから、これには驚いた。
…いや、今の声は聞き覚えがある。
この前聞いたような…その声の主にようやく思い至った俺は、バッと顔を上げた。


「奥村先生…」
「おはようございます、勝呂くん」


そこには、にこりと笑みを浮かべた奥村先生が立っとった。
普通に挨拶までしてきよる。


「え、な、なん…」
「びっくりしましたか?」


俺が声も出ぇへんくらい驚いとったら、いたずらが成功したような顔で先生が笑う。
(なんや、そないな子供っぽい顔もできるんやな…)
祓魔塾での授業やら見とって、奥村先生はすごいお人なんやというイメージを持った。
同い年やのにもう祓魔師やし、塾では教える立場やし、学校の方でも主席やったし。
遊びやらいたずらなんや興味ない、真面目でしっかりした人やとばかり思っとったから、俺はその顔にほんま驚いてしもうた。


「あれ、勝呂くん?」


奥村先生が首を傾げる。
その仕草がまた年相応すぎて、どんなにすごい人やってもまだ俺らと同じ15歳なんやもんな、と改めて思った。


「いや…すんません、少し驚いてしもうただけなんで」
「それならよかった。勝呂くんを驚かせるために秘密にしていたんですよ」


くすくす笑いながら言われ、今度は俺が首を傾げることんなった。
秘密にしとった?何をや?


「僕と勝呂くん、同じクラスなんです。塾に熱心な勝呂くんのことだから、恐らく知らないだろうと思っていたので」


これが秘密です、楽しそうに言葉を紡いでいきよる先生が、なんや可愛く見えた。
(…いや可愛いって何やねん!!奥村先生は俺と同じくらい身長ある立派な男やぞ!?)
頭を振ってそん考えを否定する。
俺のその行動を見とった先生が勝呂くん?と問うてきたけど、気付かんふり。


「確かに知らんでしたわ」
「でしょう?さっきの勝呂くんの驚いた顔、面白かったですよ」
「…悪趣味な人やな」
「ちょっとしたお茶目ってやつですよ」


何がそない楽しいんやろか。
塾ではほとんど見せることんない、年相応の無邪気な笑顔が目の前にあった。
上っ面だけやない、ほんまに楽しそうな笑顔が、今は俺だけに向けられとる。
いつもは奥村にしか向けられへんようなその笑顔を、こないな場所で晒しよる先生。
(やっぱかわ…いやいやいや!!)
また否定する。
せやけど…これはもう、否定できへんくらい俺の中に大きくなった感情やった。
(認めとうないが…奥村先生が、どうしても可愛く見える)
ギャップゆうやつやろか?
いつもはビシッとした真面目な優等生が、人にいたずらを仕掛け、成功して楽しそうな笑顔を見せる。
…あぁ、あかんなこれ。


「でも、勝呂くんが同じクラスにいてくれてよかったです」
「何でです?」
「この学園には一人で来たので…。あ、一応兄はいますけど、科が違いますからね。知っている人がいるのといないのとでは、気持ち的に全く違いますし」
「あぁ、それは俺も同じです。志摩と子猫丸はおりますけど、科が違うて塾や寮くらいでしか会わへんのですよ」


そないな会話をしとったら、急に奥村先生が寂しそうな顔になった。
…俺、何か変なこと言うたか?


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