aoex(雪受け)

□僕のいる意味
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僕の存在理由って何だろう。
兄さんを守りたい、そのためにも強くなりたい、そうやって今まで生きてきた。
でも、兄さんには僕なんか必要ないんじゃないかって最近思うんだ。


「勝呂ー、ここ分かんねー」
「どこやねん…って、そこさっき授業でやったとこやないか。お前何聞いとったんや」
「…寝てた」
「自業自得や」
「うー…志摩ぁ、…じゃない。子猫丸、ここ教えてくんね?」
「あれ、何で俺とばされたん?」
「志摩に聞いても意味ねぇじゃん」
「その決め付けやめてぇよ!!」
「奥村くん、どこが分からないんです?」
「えっとなー、ここ」
「あぁ、そこですか?確かに分かりにくいとこやもんね。でも、ここなら坊の方が理解しとるんと違います?」
「だってよ?勝呂」
「何が『だってよ?』やねん。…はぁ、もうええ。貸してみぃ」
「さっすが勝呂ー、話が分かるなっ」
「次はもうないからな?」
「はーい」


勉強で分からないところがあっても、兄さんには勝呂くん達が教えてくれる。
嫌そうにしながらも、元来面倒見のいい勝呂くんが結局教えてあげるんだ。
兄としての威厳を保っていたいのか、例え僕の授業で分からないところがあっても兄さんが僕に聞いてくることはあまりない。


「燐、そんなんじゃいつまで経っても炎をコントロールなんかできないぞ?」
「分かってるっての!!」
「やーっと蝋燭を灯せたと思ったら、降魔剣じゃ上手く扱えないんだもんなー」
「うううるせぇ!!」
「おらおら、アタシを殺すくらいの気持ちでこないと傷すら付けられにゃいぞ〜?」
「くっそ…覚悟しとけよ!?」
「頑張れ〜、にゃはは」


一番難関だった青い炎のコントロールは、全てシュラさんに任された。
魔剣とはいえ騎士の称号を持つシュラさんの方が、僕より適しているとされたからだ。
兄さんはシュラさんの雰囲気に飲まれつつ、いつもからかわれながらの修行だけど、とても楽しそうに見える。
竜騎士と医工騎士の称号しかない僕に、兄さんは剣の使い方を聞いてくるわけがない。


「よかったですねぇ、奥村くん」
「…まぁな」
「あれ?嬉しそうじゃないですね。せっかく処刑を免れたというのに」
「つっても、半年後の祓魔師認定試験に合格しないといけねぇんだろ?」
「できないとでも?」
「それは…」
「せっかく私がもぎ取った最大のチャンスだというのに、あなたはそれすらも無駄にするというのですか?」
「は、はぁ!?やるに決まってんだろっ!!絶対祓魔師になってやるっつーの!!」
「はいはい、その意気ですよ」


そして。
兄さんが今でも生きていられるのは、フェレス卿の尽力が大きい。
半年後の試験に合格というのは無理難題な部分もあるけれど、可能性は0じゃない。
兄さんも漸く自分の立場を理解してくれたみたいで、やる気になってくれた。
僕の力だけじゃ、きっと兄さんは今頃生きてはいなかったと思う。

僕がここに存在し続けるというのは、兄さんにとって実はあんまり意味がないんじゃないだろうかと思う。
兄さんには塾のみんながいる、シュラさんがいる、フェレス卿がいる。
僕1人がどうなろうが、兄さんには何にも関係ないじゃないか。


「兄さん、課題はやったの?」
「んー…やった」
「そんな見え見えの嘘つかないでよ」
「はぁ?ちゃんとやったっつーの。勝呂に教えてもらったんだよ」
「…、……そっか」
「それに今日は、シュラとの修行も真面目にやって疲れてんだ。もう寝かせろよな」
「…うん、おやすみ」


ほら、兄さんにとって僕はただの口うるさい弟でしかないんだ。
自分のベッドで寝てしまった兄さんを見て、改めて思う。

僕は兄さんを守れてる?
今まで守られてばかりだったことは分かってる、子供の頃なんて毎日のように兄さんの後ろで泣いていただけなんだから。
でも、今はどうだ?
学校に講師に任務にと、疲れた僕を癒やしてくれるのは兄さんの存在があるから。
結局、僕はまだ兄さんに守られてるんだ。
僕は兄さんを守れてはいないけれど。


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