aoex(雪受け)

□痛みと引き換えに
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それは、突然起こった。
目の前でガラスが割れよって、その破片が突然俺に襲いかかってきた。
体中に痛みが走る。
同時に、目には激痛が走った。
それを頭で理解する前に、俺の視界は真っ暗闇に埋め尽くされた。
周りが悲鳴で溢れかえる、誰かが俺の名前を呼びよる…せやけど、何も見えへん。
ちゃんと音は聞こえよるんに。
目は開いとるはずなんに。


「…何も、見えへん」


そう呟いて、俺の意識はプツリと途絶えた。





――…意識が浮上する。
目をゆっくり開いてく、けど。


「………なんでや、」


何も見えへん…いや、ちゃうな、これは…何かで視界を塞がれとる?
そん前に、ここは一体どこや?
分からへん。
俺は生きとるんやろか?


「目、覚めたか?」


いきなり近くから聞こえた声。
その声に聞き覚えは、全くあらへん。


「誰…?」
「ま、そうなるよな。俺の名前は奥村燐だ」


その名前にも聞き覚えは、やっぱりあらへんかった。
状況も把握できひんし。
黙っとると、そん人は静かに話し出した。


「お前、覚えてるか?いきなりガラスが降ってきたこと」
「…少しなら」
「よし、覚えてるな。そん時、そのガラスがお前の目に…その…刺さっちゃって、さ。両方の目、見えなくなってんだよ」


まるで自分んことみたいに話すこの人に、俺の頭はついていけへん。
ちゅうか、目が見えへんくなった?


「…その連絡が入ったのが、1週間前」
「へ?」
「だーから、お前がこの病院に運ばれてきてもう1週間は過ぎてるってこと」


1週間。
ちゅうことはなんや、俺はどっかの誰かが連絡してくれはった救急車かなんかでいつの間にか病院まで運ばれよって、そのまんま1週間も眠っとったいうことやろか。


「…なぁ…奥村、くん」
「燐でいいよ」
「せやったら、燐くん」
「何?」
「燐くんは何でここにおるん?…俺の知り合いとかやないよね?」
「違うけど」
「ほんなら…」


何で?と聞く前に、燐くんが少し笑いを漏らしたんが分かった。
笑い言うても、苦笑いやったと思う。


「ここに運ばれて1週間過ぎたのに、お前全然目が覚めそうになかったからさ。昨日、勝手に手術されたんだよ、その目」
「え、じゃあ…」
「あ、俺は医者じゃねぇよ?お前と同じ年だし、まだ高校生」
「…なら、ほんまに誰なん?」
「今は包帯が巻かれてっけど、それ外すと見えるようになってっから。前より視力はすっげぇ落ちてるだろうけどな」


医者じゃない、言うた。
なんに、何で燐くんは今の俺の状態をこない知ってるん?
全然関係ない人なはずなんに。
知り合いでもあらへんのに。
分からへん。
…それが顔に出てたんやろうか。


「不思議そうな顔してるなー。なら何でお前はここにいるんだよ、って顔」
「…俺は見えへんのに、人の顔観察せぇへんとってよ」
「ま、そう言うなって」


何が可笑しいんか燐くんはクスリと笑い、俺の目に、正確には俺の目の上に巻かれとる包帯に、手でそーっと触れてきはった。


「…なに」
「お前の目が見えるようになったのは…っていうか、手術に使われた目は、1ヶ月前に死んだ俺の弟のなんだ」
「…っ!!」


死んだ、弟の。
ほんなら、俺の目はその人の…?
そう思うと、なんや申し訳ない気持ちになってきて。


「…堪忍な」
「何が?」
「なんか…燐くんがここにいる理由、当たり前なんに、」
「あぁ、そんなこと。別に気にすんなよ。知らない人がいきなりベッドの隣にいて話し掛けてきたら誰でも驚くだろ」


確かに、そうかもしれへん。
せやけどやっぱり、さっきより気まずくなってしもうた気がする。


「………」
「………」


暫く、辺りを沈黙が支配する。
見えへんのはやっぱり不便や、相手がどないな表情しとるんか全く分からん。
相手がどこを見とるんか分からん。
なーんも見えへん。


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