aoex(雪受け)

□憎まれ役の末
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学年主席の優等生。
それが、正十字学園での僕の立ち位置。
中一級祓魔師。
それが、正十字騎士團での僕の立ち位置。
対悪魔薬学の講師。
それが、祓魔塾での僕の立ち位置。


「雪男、何か悩み事でもあんのか?」
「…何で?」
「いらいらしてるなーって」
「…別に。何もないよ、心配しないで」


いらいら、か。
確かに僕はいらいらしているかもしれない。


「つってもさ、今日だって授業中すげぇ怒ってきたじゃねぇか」
「それは兄さんが寝てるからでしょ」
「うっ…そうだけどよぉ」
「あれ、認めるんだ」
「否定できる気がしねぇからな」


祓魔塾のみんながいる前で、確かに僕はいらいらしていた。
でも、そのいらいらは受け持っている生徒の誰かに対してのものじゃない。
もちろん、兄さんに対してのものでもない。


「で、やっぱいらいらしてるよな」
「…いらいら、とはちょっと違うかな」
「は?」
「ううん、何でもないよ」


その後も兄さんはしつこく問い詰めてきたけど、のらりくらりと躱していく。
深く追及しないでほしい。
兄さんにも関係あることだから、尚更。





「…何でこのくらいのこともできないんですか?志摩くん」
「すいません…」
「謝ることなら誰でもできます。そんな暇があるならもっと勉強に集中して下さい。毎回毎回赤点を取って、本当に祓魔師になる気があるんですか?」
「あ、あるに決まってるやないですか!!」
「でしたら、結果で示して下さい」


志摩くんのテストの点数が悪かったから、厳しく注意した。


「三輪くん、猫又だからと気を取られないようにして下さい」
「分かってるんですけど、どうしても目ぇがいってしもうて…」
「その言葉は先月も聞きました。本当に反省しているんですか?」
「ほ、ほんますみません…」


三輪くんが悪魔である猫又に気を取られていたから、厳しく反省を促した。


「確かに質問は大切です。分からないところをそのままにしておくのはよくない」
「だから質問しに来たんじゃないですか」
「…自分で調べようとすらしていないのに、ですか?」
「え?」
「そこは前々回の授業で触れています。一度やったところを質問として聞きに来るのは、自分は授業を聞いていなかったと主張しているのと同じことだ」


神木さんが教えた部分を質問しに来たから、厳しく諭した。


「君はあまりにも無謀すぎる」
「…何で奥村先生にそないなことまで言われなあかんのですか」
「そのままでは、志摩くんや三輪くんだって迷惑に思うでしょう」
「それこそいらん迷惑です」
「そうでしょうか?君に覚悟が足りないせいで、振り回される人がいるということも考えてみたらどうです?」


勝呂くんが腹を括れていないから、厳しく言葉を投げつけた。


「前にも言いましたよね。薬草に自作の名前をつけるのはけっこうですが、テストの時はきちんと書いて下さいと」
「…はい」
「じゃあ、これは何ですか?」
「あ、あのね、雪…奥村先生。わざとじゃないの、ただ、私の中ではサンチョさんでウナウナくんだから…」
「僕にはそのサンチョさんやウナウナくんやらが何なのか分かりません。次はちゃんと気を付けて下さい」


しえみさんがテストの時でも独自の名前で解答するから、厳しく正した。

こうやって、みんなに厳しく接していく。
厳しい言葉で、厳しい態度で。
そうすれば僕は厭われ恨まれ、憎い対象として嫌われるんだ。
…それが悲しいと言えば、嘘になる。
でも、『奥村雪男が嫌い』という気持ちで生徒達が団結してくれるなら、僕は喜んで憎まれ役になろうと思う。
いらいらするのは、そんな方法でしか仲を取り持つことができないから。
要は自分自身に対してなんだ。
そんな方法しか思い付かない自分は本当に未熟で、本当に無力で…こんな自分が、本当に嫌で仕方ないよ。


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