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□救いの手は
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「おい、魔神の落胤」
「っ…」
「無視しないでもらえるかな?」


まただ。
俺は他の祓魔師達にとって、魔神の落胤としてしか認識されていない。
特に、祓魔塾の講師の先生達からは「魔神の落胤」と呼ばれている。
一年担当の先生達はそんなことないけど、他の学年の先生は態度があからさまだった。


「お前みたいな奴、何で今もこうやって生かされてんだろうな」
「フェレス卿も冗談が過ぎる」
「魔神にまつわるものなんか、すぐに殺せばいいものを」


笑い声がこだまする。
でも、俺はその言葉に耐えるしかない。


「今度の祓魔師認定試験、落ちてしまえばいいんですけどねぇ」


言いながら、その先生達は俺に蔑むような視線を向けて去っていった。
…噛み締めた唇と握り締めた拳から、赤い血がぽたりと垂れた。





「奥村くん、体調でも悪いん?」
「最近元気ないですよね」


志摩と子猫丸に言われ、ハッとした。
慌てて笑顔を作る。


「な、何言ってんだよ!!俺が体調悪い?んなわけねぇじゃん!!」


まさか先生達に魔神の落胤だなんだ言われて落ち込んでるとか言えないじゃんか。
みんなに心配掛けたくないから、元気と笑顔を振り撒いていく。


「でもいつものあんたらしくないのよ、真剣な顔して俯いて」
「せやな、どう見ても様子おかしいやろ」
「悩み事でもあるの?燐」


首を傾げ問い掛けてくるしえみに、俺はぐっと声を詰まらせた。
出雲や勝呂にも心配掛けてる。


「悩み事…なんて、俺に」
「ない、なんて言わせへんで?悩みまくってますゆう顔しよってからに」


勝呂に睨まれるし、みんなからの視線も感じるし、どうすればいいんだよ俺…。
そう悩んでいると。


「兄さん、いる?」
「…雪男」
「あぁ、いたいた」


みなさんもお疲れ様です、勝呂達にそう言いながら雪男が近付いてくる。
塾の授業も全部終わったからか、いつもの兄さん呼びに戻っていた。


「みなさんで何をしていたんですか?」


俺を囲むようにして集まっている勝呂達を不思議に思ったのか、俺のそばに立ったままみんなを見回して聞いてきた。
余計なこと言うなよお前ら…なら俺が先手を打てばいい話なんだけど、雪男の登場は俺も予想してなかったから慌てちまってて、いつも働かない頭はもっと働かない。


「若先生、奥村くん体調悪いんですか?」
「ちょっ志摩!!」
「体調…?え、体調悪いの?兄さん」


雪男まで心配そうな顔で覗き込んできた。
くそっ、志摩の奴…。


「あのなぁ…俺が体調悪くなるような奴だと思ってんのか?お前だって知ってんだろ、俺風邪すらひいたことねぇよ」
「…それもそうだね」


納得してるのかしてないのか…。
なんか適当に返事をされた気がするけど、納得したということにしておこう。


「それより雪男。お前、俺を探してたみたいだけど、何か用でもあんのか?」
「あぁ、そうだった」


今思い出した、という風な顔をして俺への用事を話し始めた。


「シュラさんが呼んでたよ。多分修行のことじゃないかな」


勝呂達は俺が魔神の落胤だってことを知ってるから、雪男も平然と話していく。


「炎のコントロール、まだできないの?」
「うっうるせぇな、だから今修行してんだろうが!!ちゃんとできるっつーの!!」
「はいはい、頑張ってね。シュラさんならトレーニングルームにいると思うから」
「バカにしやがって…今に見てろよっ!?」


捨て台詞だって思わないでもないけど、頭に血が上った今の状態じゃ、そんなことにも気が付かない。
結局、ぷんぷんしながらシュラのところに向かうしかなかった。

…俺がいなくなった後、雪男と勝呂達が何を話していたかなんて知らない。
ただ俺はその時、シュラの修行を必死になってやっていた。
でも、炎のコントロールは一向にできる気配がなかった。


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