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□救いの手は
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「おい、魔神の落胤。いつまでここにいるんだ?」


祓魔塾の廊下でまた出会ってしまった。
この先生達はいつもこんな感じで、やっぱり俺は耐えるしかない。
どうすることもできなかった。


「だんまりか。静かにしていれば許されるとでも思ってるのか?」
「お前の青い炎は人を殺せるんだ。そんなアブナイ奴と一緒にいて、一年の他の生徒も嫌だろうなぁ」
「…っ」


そう、かもしれない。
この力でみんなを危険な目に遭わせたことがない、なんて言えないし。
…みんな、嫌に思ってんのかな。


「図星、ってとこか?」
「奥村先生だって大変だろうよ。こんな兄を持って、迷惑しているはずだ」


…そうだよな、雪男にいらねぇ苦労を掛けてんのは俺のせいだ。
炎のコントロールだってまだできないし…。


「――それは違います」
「…え、」


聞こえるはずのない声が聞こえてきて、俺はびっくりしながら振り返った。
雪男が、当たり前のように立っている。


「奥村、先生…」
「兄のことを迷惑だと思ったことはありません。先生方にこのような口を利くのは心苦しいのですが、勝手な先入観で適当なことを言わないで頂けますか?」


冷たい声が廊下に響き渡る。
どんな反論も許さない、そんな強い意志が伝わってきて、目の奥がじわりと熱くなった。


「…ゆきお、」
「奥村先生だけやない」


雪男の後ろからは、勝呂を先頭に塾のみんなが現れた。


「あんた、何で言い返さないのよ。馬鹿じゃないの?」
「僕やって腹が立ちますよ」
「いつも悩んでたんやろ?ごめんなぁ、気付いてやれへんくて」
「もう我慢しなくていいんだよ、燐」
「もっと頼れ言いよるやろ。俺らはそない信用できへんのか」


口調は怒ってるのに、優しい眼差しを向けられて、どうすればいいか分からない。


「あ…え、と…」
「…隠さないでよ、兄さん」


ふわり、雪男に抱き締められる。
後ろから頭を押さえられて、自然と雪男の肩に顔を押し付ける形になった。


「あんな奴らの言葉、信じないで」


ぐっと近くなった距離。
その耳元で、小さく言葉が紡がれる。


「僕は迷惑だなんて思っていない。それは勝呂くん達だって同じだ。みんな、兄さんを必要としているんだよ?」
「っでも、」
「…僕の言葉より、あんな奴らの言葉を信じるって言うの?」
「あ…」


雪男の声がじんわりと心に染みていく。
そうだ、何で俺は雪男やみんなの言葉を信じていなかったんだろう。


「惑わされないで」
「ゆき、お…」
「傷付いている兄さんなんて、僕見たくないよ。…好きだから、尚更」
「〜〜っ」


最後の一言は低く囁くように言われて、俺は言葉を詰まらせてしまった。
何か言いたいけど、口をぱくぱくさせるしかできない。


「…と、言うことです」


俺が何も反応しないでいると、雪男が怒りを抑えたような声を出した。


「先生方、もうこのような陰湿な嫌がらせはやめて頂けますよね?」


声はそのままなのに、顔はにっこり。
ひぃっ…って声が聞こえたけど、俺は雪男に抱き締められたままで後ろは見えない。


「俺達やって黙ってへんですよ?例え尊敬に値する祓魔師の先生やったとしても、これは話がちゃいますわ」
「大体、先生方はこいつのことちゃんと知っているんですか?私達は魔神の子どもってことを知っている上で付き合ってるんです」
「燐は私達の友達なんだからっ!!」
「…チッ。行くぞ」


雪男やみんなの気迫に押されたのか、先生達は舌打ちしながら去っていった。


「…もう大丈夫だよ、兄さん」


その声に顔を上げると、いつもの笑顔に戻った、俺にだけ見せてくれる微笑みを浮かべた雪男がいた。
その笑顔に安心を覚える。


「ありがとう、雪男。…みんなも、ありがとな、助けてくれて」


みんながいるから、俺は頑張れる。
そして、俺には雪男がいる。
いつでもそばにいてくれる雪男は、俺を好きでいてくれる雪男は、俺の味方だから。


「…俺も好きだぜ、雪男」


ぎゅっと抱き付くと感じたその温もりにまた安心した俺は、笑顔を浮かべながら耳元でそう囁いた。



◇おわり◇

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