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□愛される人
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奥村先生を観察しとって分かったんは、視線の先にはいっつも奥村がおるゆうこと。
ほんで多分、奥村んことが好きや。
実の兄貴にそないな感情抱いて、なんや空しい思わへんのやろか。
しかも、や。


「奥村くーん、今日の帰りデートせえへん?ゲーセン行こうや」
「え、まじで!?行く行くっ!!」
「よっしゃ!!これで1時間頑張れるわ〜」
「次移動だろ?志摩、一緒行こうぜ」


そうして当たり前のように連れ立って教室を出て行きよった奥村と志摩は、最近付き合い始めたらしい。
ほんの前までは俺や子猫丸に声を掛けてから移動しよった志摩が、今では奥村と行動するんが日常になってしもうとる。
ほんでそれは、対悪魔薬学の授業後で、まだ先生がおる教室内やっても変わらんかった。


「奥村先生」
「………」
「…先生、…奥村先生」
「……えっ、あ…どうしました?勝呂くん」


俺が話し掛けたのも気付かんと、悲しそうな寂しそうな顔をしとった奥村先生の意識を無理矢理こっちに向ける。
慌てていつもの作り笑顔になったんは気に喰わんけど、論点はそこやない。


「質問ですか?」
「まぁ、質問っちゃ質問ですわ」
「…?」


よく分からない、そないな顔をしよる奥村先生に、今ここで追い討ちをかけるような話は正直したない。


「…授業終わりでもええですか?」
「あ、あぁ…あと1時間あるんですよね。分かりました、いいですよ」


にこりと微笑んどる顔は、やっぱりどっか作られたような笑みやった。





祓魔塾での授業も全部終わって、俺は今、教室で人を待っとった。
相手はもちろん、奥村先生。
椅子に座ったまま、ぼうっと思想に耽る。


「任務、押しとるんやろか…」


俺が授業を受けよったさっきの時間、先生は任務に行く言うとった。
簡単な任務やし、本人は1時間あれば十分終わる言うてたけど…なんや問題でも起こったんやろか。
頭ん片隅に不安が過ぎった時、俺のおる教室の扉が急に大きい音を立てて開きよった。


「す、すみません…遅く、なりました」


音につられて視線をやると、若干息を切らしとる奥村先生の姿があった。
つられて立ち上がる。
ここまで走ってきたんか、いつもビシッと着こなしとるコートは僅かに着崩れとった。


「いや、大丈夫です。言う程待っとったわけやないですし」


それよりも、まずはその着崩れとるコートをどうにかしてくれへんやろか。
ボタン外れとるし肩からずり落ちそうやし、なんや目のやりどころに困るわ。
…とか、そんなん言えへんやったけど、俺がコートんとこ見よるのに気付いたんか、奥村先生は慌てて正しはった。


「あぁもうすみませんっ、こんな見苦しい格好で…」
「見苦しいやなんて、」


そないな格好も珍しゅうてええで――すんでの所で飲み込んだ言葉は、さすがに引かれそうな内容やった。


「それで、質問とは何でしょうか?」
「…そん前に、座りませんか?話、長くなるかもしれへんので」


お互いに立ったままやったのに気付き、そう提案してみる。
今回の目的はただ一つ。
質問なん正直関係ない、俺んことをもっと見てもらいたい、ただそれだけやった。


「それもそうですね。では、失礼して」


言うて、俺のそばの椅子に腰掛ける。
俺もさっきまで座っとった椅子に腰掛け直して、口を開く。


「俺な、奥村先生に聞きたいことがあるんですわ」
「ええ、いいですよ。悪魔薬学のことでしょうか?それとも、別の科目?」
「…全然関係ないことなんですけど、それでもええですか?」
「いい、ですけど…何でしょうか?」


不思議そうに首を傾げはる奥村先生に今からかける言葉は、きっと残酷すぎるもんや。
せやけど、俺は止めるつもりないで。


「先生は、…奥村んこと、どう思ってはるんですか?」
「っ!?」


俺の言葉に息を飲んだ奥村先生は、何かを堪えるみたいに唇を噛みはった。
つらいんよな、やるせないんよな。
恋い焦がれとる相手が実の兄貴いうんも、その兄貴に男の恋人がおるゆうんも、それでも諦め切れへんくてずっと想い続けとるんも、それを他人に指摘されるんも、全部全部。


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