aoex(50000Hitリク)

□初めて見た表情
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若先生のこと?
そんなん決まってますやん。
俺と同い年なんに祓魔師の資格持っとって、しかも学年主席、祓魔塾では講師も務めてはる、これをすごい言わずに何て言うんや。
確か勉強始めたんが7歳やっけ?
最年少で祓魔師の資格取るとか、ほんま化け物みたいなお人や思うわぁ。


「ふーん…やっぱそう見られてんだな」


奥村くんの唐突すぎる質問に律儀に答えた俺へ返ってきたんは、そんな言葉やった。


「ちゅうか、どうしたん?急に」
「いや、意味は特にねぇんだけど…」
「意味ないんに聞いてきたん?」
「んー…雪男が他の奴にどう思われてるのか知りたかったから、かな」


よう意味が分からん。
…奥村くんの質問は、『志摩は雪男のことどう思ってる?』やった。
そん前までエロ本談義に花を咲かせとったんに、急に神妙な顔した思たらこれや。


「今の質問、坊達にも?」
「お前が最初。つーか、他の奴に聞く予定とかねぇし。なんか急に思っただけだしな」
「そうなんかぁ。せやけど、みんな俺と同じようなことしか言わへんと思うよ?」


俺や他の塾生達が若先生を見る機会は、圧倒的に祓魔塾関連が多い。
祓魔塾の教室はもちろん、演習やー言うて森ん中行ったり旧男子寮んとこで合宿したりした時も、引率には常に若先生がおった。
ほんでそん時の姿は、講師としての責任感を持っとって、凛とした立ち振る舞いやった。


「やっぱそう思うか?」
「絶対そうやろ」


何でこないなこと聞くんやろ?
奥村くんと若先生は双子さんや、そりゃあ俺の知らんような若先生も知っとるやろう。


「奥村くんは若先生の素の姿とか見慣れとるからそう思うんよ」


それは、俺達は見ることすらない姿。
絶対素の姿なん見せん、俺達に対してどっか一線を画しとる若先生は、固い固い殻に閉じ籠もっとるように俺には見える。
その殻を破ったりたい…て、思わんでもないんやけどね。





そんなんがあって、数日。
俺は夜の祓魔塾に一人で赴いとった。
理由?そんなん決まっとるやん。


「何で忘れ物なんしたんや、俺…」


塾の教室に宿題のプリントを忘れてもうたとか、何やってんやろ俺。
しかも、や。
悪魔の活動時間は夜や、となると祓魔師の活動も夜やから、祓魔塾ん中はてっきり夜なん関係ないくらい明るい思とったら…予想は大ハズレ、めっちゃ暗い。
暗ぉて長い廊下を、一人で歩いていく。


「…ま、まぁ暗い言うても悪魔なん出るわけないし?襲ってくるわけもないしぃ?」


無駄に声を上げながら教室を目指す。
そ、そうせんとなんやへこたれそうなんやもんしょうがないやんっ。


「そうそう、何もな…い……、ん?」


ぴたり、歩みが止まる。
なんや今…啜り泣いとるような声が…。


「っいやいやいや、気のせいやって」
「――っう、ぐす…」
「気の…せい……っやない!!」


泣き声聞こえてくるやん!!
しかも、俺が今から行こうてしとる教室から聞こえよらん!?


「どないしよ…」


迷っても、宿題やらんわけにはいかんし、取りに行くしか道はないんやけどねっ。


「…あかん、泣きたなってきた」


ほんま、何やってんやろ俺。


「でっでも、悪魔が泣くとかないやん?…ないよな?うん、ないはずや」


答えの見えない自問自答を繰り返しながら、辿り着いた教室前。
啜り泣く声は大きなっとった。


「…ええいっ!!なるようになれやっ!!」


バァン!!
暗く静かな祓魔塾内に、俺が扉を勢いよぉ叩き付けた音がいやに響いた。
俺の心臓はどきどきばくばく。
もしもの時んために手にしとった錫杖を構え直し、教室の中へ一歩踏み出した。
その時――かたり、物音。
そん音は、教卓の辺りから聞こえた。


「…や、やっぱり何かおるんか……?」


恐る恐る教卓に近付く。
恐怖と好奇心を秤にかけたらそりゃあ恐怖に傾くやろうけど、何がおるんかは確かめときたいところや。
近付いていくと、教卓んとこに蹲るようにして座っとる塊を発見。


「え…若先生?」


暗がりん中で目ぇ凝らして見ると、それは若先生やった。


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