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□俺だけの特権なのに
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「…奥村、何やそれ」
「ん?どう見ても雪男だろ」
「どう見ても奥村先生には見えへんから聞いとるんやろが」
「えー、ちょっと小さいだけじゃん」
「それはちょっとのレベルとちゃうわっ!!」


そう、雪男は小さくなっていた。
小学生くらいでも通る外見は、燐にとってはちょっとのレベルかもしれないが、勝呂達にとってはそうではない。
そんな雪男は今、いつもの毅然とした態度からは想像すらできない、今にも泣き出しそうな表情と怯えるような目をしていた。
しかも燐の後ろに隠れており、離すまいと燐の制服の裾を遠慮がちに掴んでいる。


「…これほんまに若先生なん?」
「だーから、どう見ても雪男じゃねーか。ホクロあるし」
「あ、ほんまや。なら若先生やね」
「でもあんまりホクロのこと言うなよ?雪男気にしてっからさ」
「最初に言い出したんはお前や」


呆れたように言う勝呂だが、燐はどうやら聞いていなかったようだ。


「なぁ、この雪男さ、可愛くね?」
「せやねぇ。いつもの若先生ももちろんかわええけど、ちっこいのもまたええなぁ」
「だろだろぉ?雪男って小さい頃は人見知りすごかったからいっつも俺の後ろばっかついてきててさー」
「何それ!!むっちゃかわええやんっ!!」
「だろっ!?」
「…って、何の話やねん!!」


そうこうしている間にしえみ達も合流し、教室内に塾生全員が揃った。
勝呂達3人が増えただけでもびくびくしていた雪男だったが、更に3人も増えたのだ、雪男の恐怖は最高潮に達していた。


「……にいさん、」
「ん?どうした?雪男」


燐の足にぎゅっと抱き付く雪男を、頭をよしよしと撫でてやることで安心させる。
その姿は、確かにお兄ちゃんだった。


「あー…あんま見ないでやってくれるか?雪男のこと。人見知りもあるけどさ、昔いじめられてたせいか他人が苦手なんだよ」


雰囲気も態度も何もかもがいつもと違う雪男に興味を示しまくっていた塾生達だったが、燐の言葉に凝視することはやめたようだ。
未だちらちらと視線を送ってはいるが。


「ていうか、何で奥村先生は小さくなってるのよ。私達まだ聞いてないんだけど?」
「俺らも聞いてないっちゅうねん。奥村、説明しろや」
「そう言われても…昨日任務から帰ってきた時にはもうこうなってたんだよ」


燐曰わく、雪男は昨日の夕方から夜にかけて悪魔祓いの任務が入っていたらしい。
その任務から帰ってくるまで寝ずに待っていた燐だったが、部屋の扉が開き帰ってきたと思ったら、もうこの姿だったと言うのだ。


「ほんならなんや、奥村先生はこん姿で一人帰ってきた言うんか?」
「だから知らねぇんだって。雪男もこんな状態で何も話さねぇし…一人で寮に置いとくわけにもいかねぇから、取り敢えず塾に連れてきたんだよ」
「よかったですねぇ、今日学校休みで」
「子猫丸の言う通りだぜ。今日が塾だけでほんと助かったー」
「じゃあ何、結局原因は分からないわけ?」


出雲がそう言った時だ。


「おーい、全員揃ってるかにゃ〜?」
「シュラ!!」
「お、ビビリもちゃんと連れてきたか。偉い偉い」


教室に現れたのはシュラだった。
雪男が小さいにも関わらず、驚いている様子は一切見受けられない。


「霧隠先生、奥村先生が何でこないなっとるか知ってはるんですか?」
「っほんとかシュラ!?」
「あ?お前ら知らねーの?」
「だって雪男喋んねぇんだもん」
「おっかしーなー、メフィストの野郎が話しとくとか言ってたんだが…」


その言葉に、燐としえみを除く塾生達は、何故雪男の兄である燐ですら事情を把握していないのか瞬時に悟った。
あの悪魔は遊んでいるのだ、と。


「まぁいっか。雪男のそれはただの魔障だ、1日もすれば元に戻るだろ」
「魔障で小さくもなるのかっ!?」
「いろんな悪魔がいるからなぁ、そんな効果を持ってる奴もそりゃあいるだろ」


雪男のことは任せた、そう言ってシュラはひらひら手を振りながら教室を出て行く。
ついでに、今日の授業は雪男の受け持つ悪魔薬学の予定だったこともあり、授業は中止になったという旨も伝えていった。


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