aoex(燐受け)

□必要な存在だから
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『あんな悪魔みたいな子…』
『寄るな、バケモノ!!』
『もうこの子とは関わらないでっ』

…昔から言われ続けてきた言葉。
幼稚園児の時から問題児として扱われ、周りの奴らからは恐怖と哀れみの目で見られることが当たり前だった。
誰かを助けようと行動しても、怒られるのはいつも俺。
それが嫌で、でもやられているのを黙って見ているだけも出来なくて、結局は間に入っていっては同じことを繰り返していた。

そんな日常が続いていたある日。
俺と雪男が中学にあがってすぐのことだ。
小学生の頃は双子だから、と同じクラスになることはなかったけど、中学の一発目でまさかの同じクラスになった。
それを雪男はすごく喜んでいたし、俺も、口では「一緒のクラスかよ、めんどくせーな」と言いつつ、内心ではすごく喜んだ。
俺には雪男と神父さんしかいなかったし、家でも学校でも雪男とずっと一緒にいれることが嬉しかったんだ。

だから…雪男がいじめられているのを見た時は、ものすごく腹が立った。
我を忘れ、雪男を守ることに必死だった。
…気が付いた時には、いじめてた奴らが血まみれで倒れていて、それを見ていた雪男は、隅の方でがたがたと小さく震えていた。


「ゆき、お…だ、大丈夫か?」


声を掛け、ゆっくりと近付く。
雪男は「ひっ」と怯えた声を上げ、涙の溢れる目で見上げてきた。
――瞬間、俺の中の何かが壊れた。


「…そ、だよな…こんな暴力的で怖い兄ちゃんなんて、お前も嫌だよな……」


頭が真っ白になり、口からは勝手に言葉が溢れ出す。


「お前がいじめられてんのも、俺のせい、だし…お前は俺と一緒にいない、方が…一緒にいちゃ、ダメ、なんだ…」


雪男がいじめられていた時に聞こえた声が、頭の中でリピートされる。
『お前の兄ちゃんなんだろ?悪魔って呼ばれてんのはよォ』
『悪魔の弟か!!全然喋んねぇし、友達少ねぇし、お前も悪魔と同類なんじゃね?』


「俺といるから、いじめられる…俺が、いるから…おれが…」


それは、雪男に言うというより、自分に言い聞かせていたかもしれない。
いじめられている雪男を助けるために奮ったその力が、逆に雪男をも傷付けていた――それは、今まで気付いていて、でも気付かぬふりをしていた事実だった。
――俺がいるから、雪男がいじめられる。


「…おれは、おまえと…ゆきおと、いない、ほうが…」
「に、兄さん!!」
「いないほうがいい、いっしょにいた、ら…ゆきおがまた…」
「兄さん!!落ち着いてっ!!」


遠くから俺を呼ぶ声が聞こえる気がする、がくがくと体が揺さぶられる感覚がする。
でも、それが誰の声で、誰が俺に触れているのかが分からない。
確認しようにも何かが邪魔していて、俺の目の前はぐにゃりと歪んでいた。
だから俺は、漏れ出る思考をただ言葉に乗せることしか出来なかった。


「おれは…お、れ、」
「っ兄さん!!」


お腹と肩が、ほんのりと暖かくなった。


「…ぁ……」
「兄さん、ごめん、ごめんね…」
「ゆ、き……っだめ!!だめだ、おれは…」


…俺は、雪男に抱き締められていた。
いや、それは抱き締められるというより、抱き付かれている、そんな感じだった。
強く、ただ強く強く。


「違うよ!!僕は…っ僕には兄さんだけだよ!!だから、だからそんなこと言わないで…!!」


雪男が、悲痛な声で叫んでいる。
その声が俺の中にどんどん入ってきて、俺をどんどん乱していく。
ボクニハニイサンダケダヨ?
だって俺のせいで雪男は、それに雪男も俺を怖がって、俺がいたから…。


「兄さんは僕を守ってくれたじゃないか!!兄さんを怖がったんじゃないよ、さっきのは、殴られそうなのが…怖かった、から…っだから、僕には兄さんが必要なんだよっ!!」


ニイサンガヒツヨウ?…俺が、必要?
その言葉が耳に届いて脳が認識した途端、俺はハッ、と我に返った。
さっきまでぐちゃぐちゃだった俺の思考が、その一言で急速に落ち着いていく。


「…おれ…」
「…ね、兄さん。兄さんは何も悪くないんだよ?だから、そんなに泣かないで…?」
「え…」


全然気付かなかったけど、俺はどうやら泣いていたらしい。


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