aoex(燐受け)

□兄と弟に挟まれて
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「…あれが、"奥村燐"」


アマイモンの視線の先には、京都組の3人と連れ立って歩く燐の姿。


「兄上と父上のお気に入り…ふーん」


勝呂と言い合いながら歩く燐は、怒鳴るように声を荒げている割に表情はどこか楽しんでいるように見え、アマイモンは首を捻る。


「怒っているのに不思議です…。もう少し観察してみることにしましょう」


一緒に歩いていた志摩が勝呂と燐に向かって何事かを言った。
それに燐は顔を赤くしてさっき以上に声を荒げ、勝呂は志摩の頭を叩く。
子猫丸が勝呂を宥め志摩を窘め、場が静まったことで燐は真っ赤な顔のまま俯いた。


「奥村燐、顔が真っ赤ですね。風邪でしょうか?…それは大変です、見ていたのに助けなかったことが兄上にバレたら、ボクは怒られてしまいます」


アマイモンはひらりと跳躍した。
先程までいた正十字学園の屋根の上から、燐達の元へしゅたっと降り立つ。


「…へ?」
「あ?なんやお前」


燐達は怪訝そうにアマイモンを見る。
塾生とアマイモンはお互いに顔を合わせたことはなく、今回が初対面だったからだ。


「おい、お前どこから来た?今、上から降ってこなかったか…?」
「確かに、降ってきはったねぇ」
「ど、どないなってはるんですか…」
「手前、早ぉ答えろや!!」


口々に言い募る4人に、しかしアマイモンは全く動じず、燐に視線を向けた。


「奥村燐」
「え、奥村くん知り合いなん?」
「違ぇよ!!こいつ、何で俺の名前…」


燐の眉間に皺が寄り、睨み付けるようにアマイモンを見るが、やはり動じる様子はない。


「奥村燐、風邪をひいていますか?」
「は、はぁ?」
「奥村くん、風邪ひいてはったん!?」
「ひいてねぇよ!!もう何なんだよお前は!!」


アマイモンに向かって怒鳴る燐。
いきなり現れた知らない奴から風邪をひいているかと疑われ、意味が分からない状況と話の通じなさに、元々短気な燐は既にこめかみがピクピクと動いていた。


「意味分かんねぇんだよ!!何で俺の名前知ってんだ!?つかテメェは誰なんだよっ!!」
「そうや、いきなり現れよって…せめて名乗れや阿呆!!」


ついには燐に触発され、同じく短気な勝呂もアマイモンに食ってかかる。


「あぁ、ボクですか?」


2人の声がようやく届いたのか、アマイモンは合点がいったと目を僅かに開かせた。


「お前以外いねーだろ!!」
「ボクはアマイモン。キミの兄のようなものです、よろしく」
「あ、兄…?」


燐をじっと見つめ、アマイモンははっきりとした口調で言い切った。
それに燐と京都組3人は困惑する。
特に当の燐は、兄という単語に反応し、それきり固まってしまっていた。


「なん、どういうことや…?」
「奥村くんとこいつが兄弟やって!?」
「なんや僕、アマイモンって聞いたことあります…確か、地の王やなかったですか…?」


子猫丸のその言葉に、勝呂と志摩は同時に目を見開いた。
この3人は、燐が悪魔で、しかも魔神の落胤ということまで知っている。
そしてアマイモンは地の王、それは、今目の前にいるこいつも燐と同じく悪魔だということを示していた。


「じゃあほんとに、兄弟…?」
「奥村、どういうことか説明せぇや!!」
「…んなこと、言ったって……」


先程の勢いはどうしたのか、燐は呆然としたままアマイモンだけを見ていた。


「奥村、くん…?」
「ちゃんと名乗りましたよ。じゃあ奥村燐、行きましょうか」
「は…」


そう言うと、アマイモンは不思議そうな表情をする燐を突然横抱きし、そのまま高く跳躍して屋根の上へと姿を消した。


「奥村ァァァ!!」
「あかん、奥村くんがお姫様抱っこされて悪魔に連れ去られてしもた…」
「は、早ぉ奥村先生に知らせへんと!!」


勝呂達3人は奥村先生――雪男を探すため、慌てて走り出したのだった。


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