aoex(燐受け)

□幸せな未来
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「雪男ー、怪我したー」
「また?兄さん、何度言ったら…」
「怪我したー」
「…はいはい、そこ座って」
「へへ、やった」


これが、俺の日常。
ちょっとでも怪我をしたら雪男のとこに行って、怪我を診てもらって、構ってもらいたくて話しかけまくったら追い出されて。
その繰り返し、だけどそれが楽しいんだ。


「はい、終わったよ」
「さんきゅー」
「次はもう診てあげないからね?」
「へーへー、分かりましたー」


と言っても、俺はどうせまたここに来て雪男に怪我を診てもらうんだ。
そして、雪男もそのことを分かってる。
だってもうこのやり取りは5回目だから。


「ねぇ、ほんとに分かってる?」
「分かってるっつーの」
「分かってるんだ。なら、僕が言いたいことももちろん分かってるよね?」
「うん、……うん?」
「…どうせ分かってないだろうから言うけどさ。僕のとこに来る前に、まず怪我をしないようもっと気を付けて行動しなよ。兄さんは自分の体を大切にしなさすぎ」


あれ、説教タイムが始まった?


「誰かを庇ったり助けたりすることは確かにいいことだと思うよ?でもね、それと兄さんが怪我することは違うじゃないか」
「えーっと…」
「兄さんが怪我をしていいという理由にはならない、そのことは分かってよね?」
「う、ん…?」
「ちゃんと話の意味分かってる?僕の話聞いてた?」
「き、聞いてるって」
「ならもう怪我して来ないでね」
「………」
「そこで黙らないでよ」
「だ、だってよぉ…」
「…はぁ」


諦めたように溜め息をつく雪男を見ても、ここに来るのをやめようとは思わない。
雪男の邪魔になってることは分かってても、会えない寂しさに比べたらそんなの気にしていられなくなるんだ。
そして、ここに来るのに無傷なままなのは俺が許せないんだ、何もないまま来たくない。


「…怪我なんてしなくても、ここに来ていいんだから」
「……仕事の邪魔はしたくない」
「今も十分邪魔になってるんだから、怪我をしてない方がまだマシなんだけど」
「でも…」
「…出入り禁止にしてもいいけど?」
「っ!?それはだめっ!!」


つい必死に否定してしまったけど、これ以上会う時間が減るなんて俺には耐えられない。


「なら、これからは怪我をして来ないこと。いい?」
「…わかった」


渋々頷くと雪男は本当に嬉しそうな顔で俺のことを見てきたから、いつも心配させてたんだなと改めて思った。
ちょっとはこいつの言葉も聞いてやろう。


「あ、そういえば。兄さん、今この病院に志摩くんが入院してるよ」
「え、何で志摩?」
「さあ?理由は知らないけど…ちょっと待ってて、調べてみるから」


パソコンをカタカタ鳴らし始めた雪男。
俺には使い方なんて分からないけど、きっとそういうことを調べるための何かがいろいろとあるんだろう。
それにしても…何で志摩が?
志摩は勝呂達と一緒に京都にいると思ってたんだけど…もしかして、何かあったのか?


「………」
「…雪男?何か分かったか?」
「……うん、まぁ」


雪男にしては珍しく歯切れの悪い回答に、俺は何だか嫌な予感がした。


「何だよ、理由分かったんだろ?」
「うん…」
「…もしかして、やべぇ状態なのか?」
「いや、そんなんじゃないんだけど…さ」


どきどきしながら聞いてみたけど、怪我自体はそんなに大したものじゃないらしい。
なら、お前のその様子は何なんだ?


「ごめんね、怪我は本当に軽そうみたいなんだよ。ただ怪我をした理由がね…」
「事故なのか?」
「うーん…事故、かな。志摩くんはバイクに乗ってたらしいんだけど、ぶつかった相手が勝呂くんと三輪くんが乗ってた車みたいで…志摩くんがぶつかっていったんだって」
「勝呂達の車に?志摩が?」
「多分こっちに来る用事でもあったんじゃないかな。でね、そのぶつかった理由が…」
「………」


雪男の口から語られたあんまりな事故の原因に、俺は呆れるしかなかった。


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