aoex(燐受け)

□二人きりの世界へ
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兄さん、兄さん。
僕がずっと兄さんのそばにいるよ。
例え世界中の誰もが兄さんのことを見放したとしても、僕だけはそばに居続けるから。

兄さん、兄さん。
僕が絶対に兄さんを守ってみせるよ。
例え理不尽な視線や暴力にその身を晒していても、僕が盾になるから。

兄さん、兄さん。
僕の一番はいつだって兄さんだけだよ。
例え兄さんが僕を見てくれなくても、僕は兄さんのことを愛しているから。


「…ゆきお……なの、か…?」


だから、ほら。


「そんな顔しないでよ、兄さん」





見渡しても、荒れ地が広がるだけ。
昨日までは確かに存在していた人も家も植物も、もう何も見当たらない。
だって、僕が壊してしまったから。


「見て、兄さん。もうここには僕と兄さんしかいない。僕と兄さんだけの世界だよ」


立っているのは兄さんと僕だけ。
二人きりの世界。


「なん、で…っ何してんだよお前は!!」
「…"何で"?」


ねぇ、どうして?
どうして兄さんは僕を怒るの?
どうして兄さんは泣いているの?


「兄さんを傷付けるものはもう何もない。兄さんが傷付くこともない。ねぇ、これが僕達の望んだ世界でしょ?」
「っ違う!!…違う…!!」
「何が違うの?兄さんはこの世から消えたいと言った。でも、僕は兄さんとずっと一緒にいたかった。じゃあ、この世界を消すしかないじゃないか。ねぇ、何が違うの?」
「違うだろうがっ!!」
「否定ばかりじゃ分からないよ、兄さん」


いつも傷付き、苦しんでいた兄さん。
兄さんは何も悪くないのに、まるで悪役のように仕立て上げられ、見せ物として蔑まれいたぶられ続けてきたんだ。
そんな兄さんの願いを、僕が叶えなくて誰が叶えてくれるっていうの?


「僕だけだよ?兄さんのことを見て、兄さんの言葉を聞いているのは」


そのためだったら、この人間の体なんか簡単に捨てることだってできる。
耳が尖り牙が生え尻尾が現れたとしても、青い炎がこの身を包んでいたとしても、後悔なんか全然していない。


「この世界は、兄さんを苦しめすぎた。兄さんに仇なすものは僕が排除するよ、そのために手に入れた力なんだから」


ニコリ、兄さんに微笑みかける。
悪魔と化した僕の容姿は変わってしまったかもしれない。
でも、僕は僕だよ?
兄さんの、たった一人の弟だよ?
なのに、ねぇ兄さん。


「…何でそんなに、辛そうな顔するの?」


兄さんのために手に入れた悪魔の力。
兄さんを守るために、手に入れた力。


「ねぇ、笑ってよ兄さん。もう傷付くこともないんだよ?苦しむこともないんだよ?」


ぐしゃり、兄さんに近付くために踏み出した一歩で人間の頭を踏みつけた。
また、兄さんの顔が辛そうに歪んだ。


「…こんな知らない奴のことまで気に掛ける必要があるの?」
「当たり前だろ!!その人は何も関係ないっ、ただ、巻き込まれて…!!」
「…同じだよ。兄さんを傷付けた奴と同じ、人間だ」
「…っ」
「でも大丈夫だよ、僕はそいつらとは違う。僕は人間じゃない。兄さんと同じ、悪魔だ」


これで、兄さんと同じになれた。


「僕は、兄さんだけいればいいんだ。これからは、兄さんとずっと一緒だ」
「…違う…俺、は…」
「僕が悪魔になって、ずっと隣にいて、嬉しいでしょ?僕も嬉しいよ」
「違うだろっ!!…お前も違うだろうが、お前は…雪男じゃ、」


ぐしゃり、ぐしゃり。
何か踏んだ気がするけど、もうそんなの気になんかしていられない。
兄さんに少しでも近付いて、とめどなく流れる綺麗な涙を拭ってあげないと。
ここには、僕達しかいないんだから。


「ほら、泣き止んで?兄さん。僕は兄さんを裏切ったりしないから。いつまでも兄さんのそばにいるから。…兄さんの、たった一人の家族だもの」
「…っ、……ゆきお、」


兄さんが僕を見つめる。
あぁ、やっと"僕"を見てくれたね。


「さぁ兄さん、いこうか?」


兄さんの手を握り、僕達は行く。
この世界を完全に破壊してしまえば、そうすれば、本当に二人きりだ。

その日、悪魔2体は世界を壊して逝った。



◇おわり◇

 

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