aoex(燐受け)
□素直さをプラス
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「なぁ、雪男」
「何?下らないことなら話し掛けないでよ、今課題を終わらせてるんだから」
「あのさぁ、俺の長所って何だと思う?」
「………」
その質問に、僕は勉強するため机に向かっていた体を兄さんへと向けた。
…何故いきなり長所?
兄さんが突拍子もないことを言い出すのは今に始まったことでもないけど…。
「…おい、そこで黙るなよ」
「あぁ、ごめんごめん。長所だっけ?」
「おぅ。何があると思う?」
「兄さんの長所でしょ?料理と……………うん、料理だけだね」
頭をフル回転させても、料理が上手いことくらいしか兄さんの長所は思い付かない。
運動はできるけど喧嘩に発展するその力は長所にはならないだろうし、勉強はもちろんできないし、元気がよすぎてよく物を壊すし、うーん……あ、体力が宇宙なみに底知れないところは長所になるのかな?
「はぁっ!?ちょ、料理だけかよ俺の長所は!!なんかこう…もっとあんだろっ!?」
「もっとって?例えば?」
「た、例えば!?えっと、例えば…か、かっこいいところだろー?あと強いとことか、優しいとことか!!」
「………」
何を言い出すかと思えば。
かっこよくて、強くて、優しい?
「…おい、そこで黙るなよ」
「あぁ、ごめんごめん」
「何だよ、文句でもあんのか?」
「…言葉を返すようで悪いけどさ、周りから見たらかっこいいのも強いのも優しいのも、僕の方が当てはまると思うんだ」
「なっ…!?」
「女の子に聞いてみれば分かるんじゃない?かっこいいのも優しいのも僕だって答えると思うよ。僕は何とも思ってないけど」
「むっかつく…!!何とも思ってないっつーその言葉が更にむかつくっ!!」
「だって、ほんとのことじゃない」
「でっでも、強いのは俺の方だろ!?これは譲らねぇぞ!?」
「何言ってるの、候補生の奥村くん?」
「うがぁぁぁぁぁぁ!!」
兄さんが叫ぶ。
正直言ってうるさい、さっきから僕は勉強してるって言ってるじゃないか。
「ねぇ、もういい?勉強したいんだけど」
「…チクってやる」
「は?」
「その女共にチクってやるっ!!雪男は料理できなくてねちねちうるさくてホクロメガネなんだってこと!!」
「あぁ、そういうこと」
「本当に言うからなっ!!」
「ていうか、ホクロメガネは関係ないよね。ただの悪口じゃない」
「うっせぇな、別にいいんだよ!!」
「あっそ。なら、すれば?」
「……え、」
困惑気味な兄さんを放置し、僕は机に向かって勉強を始める。
もう放っておこう、そう結論付けて。
「女の子達に言うんでしょ?別にいいよ」
「え、あ、……な、なんで」
「どうせ兄さんの言葉は信じてもらえないから、かな」
「は、はぁ?」
意味が分からないという風に眉間に皺を寄せる兄さんだけど、ちょっと考えたら分かることじゃないか。
学校での、僕と兄さんの立ち位置は。
「覚えてないの?兄さんが僕にお弁当を作ってくれた時。僕は兄さんが作ったって言ったのに、誰も信じてなかったじゃないか」
「うっ…」
「兄さんがどんなに僕の悪口を言いふらしても、僕の信頼度は高いってこと」
「………」
ついに俯き、口を噤んでしまった兄さん。
部屋に沈黙がおちるけど、僕は気にもせず勉強を進めていく。
これで漸く静かに勉強できる。
そうして、どのくらい経っただろうか。
集中していたから時間の感覚がなくなっていたが、ちらりと時計を見たら、兄さんと最後に話してから30分近く経っていた。
勉強はもうすぐ終わりそうだ。
「……もういい」
あとちょっと、そんなところで、兄さんの呟きがぽつりと部屋に落ちた。
「………………、……何が?」
声を掛けるべきか散々迷い、出した答え。
兄さんの方をチラリと見ると、頬を膨らませて僕を睨んでいた。
そんな顔しても可愛いだけだよ、と言うと火に油を注ぐだけだろうから言わない。
「もうお前のことなんか知らねぇ!!お前なんか一人で勉強でも何でもしてろっ、俺は志摩達んとこに行くからな!!」
そう言い、膨れっ面のままぷいっと僕から顔を背けてしまった。
どうやら拗ねたらしい。
さて、この可愛い兄をどうしようか…。
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