aoex(燐受け)

□傷付けたくない
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とぼとぼと修道院までの道を歩く。
また、喧嘩してしまった。


『隣のクラスのさ、あいつ…えっと…そう、奥村雪男!!あいつ暗いよなー』
『あぁ、あのメガネな。地味っつーか、反応すらしねぇよな』
『何だよ、お前話し掛けたことあんの?』
『この前な。消しゴム落としたから親切な俺が拾ってやったっつーのに、お礼どころか見向きもしねぇ』
『あー、想像できるわ』
『勉強できて先生受けいいからって、調子乗んなって話。イライラする』
『だから友達できないんだろうな、あの地味メガネ。いっつも1人とか可哀想――』


…授業に出る気もなくぼーっとしていた時、近くで聞こえてきた会話。
内容は、雪男の悪口だった。
そしたらもう頭ん中が真っ白になって、気付いたら手が赤く染まっていた。
それが血だと分かり慌てて周りを見回すと、さっきまで雪男の悪口を言ってた奴らが地面に倒れていた。

そのまま俺は職員室に連れられ、説教。
悪口を言ってた奴らの親からも罵られ、俺は嫌な気分のまま学校を出た。
ジジイは仕事でいないってことで、俺は1人で帰っていたのだ。

最初に悪口を言っていたのはあいつらだ、だから俺は腹が立って喧嘩をしかけた。
そのことを俺が言っても誰も聞きやしない、俺のことなんか信じないんだ。
そいつらは普段の態度がよく、成績もそんなに悪くないらしい。
逆に俺は、学校にも行かずふらふら、成績は最悪、信じてもらえないのも当たり前だ。


「…ただいま」
「おかえり兄さん。また喧嘩したんだって?さっき学校から電話がきたよ」


怒ったような雪男の声。
ズキ、心が痛む。


「あー…まぁな」
「毎日毎日、ほんと飽きないよね。今回は何が原因?」
「そ、それは………」
「…はぁ。どうせ、また下らないことなんでしょ。ちっとも成長しないんだから」


下らないことなんかじゃない、お前の悪口を言われてたんだぞ?
雪男はあいつらと違って休み時間も勉強に集中してるんだ、いい高校に行くために。
それだけいつも努力してきたんだから、成績がいいのも当たり前だろ。
地味でもない、心優しくていい奴だ。
なのに、そんな自慢な弟の悪口を言われてたら腹くらい立つだろう?


「手当てする僕の身にもなってよね。あ、神父さんには後から報告しておくから」


何だよ、何で怒ってんだよ…。
俺はお前のために、悪口言われてて、だから俺、腹立って、だから、だから。


「お前らー、玄関で何やってんだ」
「あ、神父さん。もう仕事終わったの?」
「おう、ばーっちり片付けてきたぜ」


前に雪男、後ろに父さん。
雪男が口を開く。
きっと、喧嘩のことを言うんだ。


「神父さん、また兄さん喧嘩したって。さっき学校から電話があったんだ」
「またか、燐」


父さんが溜め息をつく。
あぁ、出来の悪い息子に呆れてるのか。
そりゃ溜め息くらいつきたくなるよな、毎日毎日喧嘩やって謝罪しに行かされて。


「で?次はどこのどいつだ?」
「…いい、学校でもう話ついたし」
「んなわけにはいかねぇだろ」
「……名前、知らない」
「は?名前も知らない奴と喧嘩したのか?お前…相変わらずだな」


相変わらず?喧嘩することが?
…そっか、父さんにとって俺は喧嘩するだけの迷惑な奴なんだ。
毎日のように続けば見放すくらいするよな。


「ま、それならしょうがねぇか…。雪男、燐の手当てをしてやってくれるか?」
「うん、そのつもりだよ」


手当て…あぁ怪我してたのか、俺。
雪男が俺の手を引こうとする。
その目が、まるで、蔑んでいるみたいで。


「……嫌、だ」
「え?」
「嫌だ…嫌、いや…」
「兄さん?」
「燐?」


違うんだ、俺は雪男のためって、悪口聞こえて、だから喧嘩して、喧嘩、して…――喧嘩するから、ダメなのか?
喧嘩したから怒られる、雪男と父さんに迷惑かかる、雪男と父さんに嫌われる――。


「いやだっ!!」


これ以上雪男と父さんの前にいたくなくて、俺は逃げるように修道院を飛び出した。


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