aoex(燐受け)

□ずっと隣で
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雪男と一緒にいられるだけでいい。
それだけでいいんだ。





俺が祓魔塾に入って、10年。
この10年で、いろんなことがあった。

悪魔としての自分を受け入れられず、勢いのまま入った祓魔塾。
そこには双子の弟である雪男が先生としていて、すっげぇ驚いたのを覚えてる。
俺は何も知らなかったんだと思い知って、雪男に突っかかっていったっけ。

それからは真面目に…いや、寝てばっかだったけど、それでも、祓魔塾に通い続けた。
仲間という存在を初めて知り、共に戦うことの楽しさを知った。
毎日が楽しいと感じていたんだ。

その毎日が一変したのはやっぱり、俺が魔神の落胤だったから。
仲間だと思ってた奴らと距離ができて、修行ばかりの毎日で、苦しくて辛かった。
祓魔師認定試験で合格しないと俺は処刑される――それはそれでよかったんだ、俺なんかこの世にいなくてもいいと思ってたから。

でも、違った。
魔神の落胤だとバレた後、それでも今まで通りに接してくれようとした志摩と出雲。
避けられたりいろいろ言われたりしたけど、仲直りしてくれた勝呂や子猫丸やしえみ。
そして何より、小さい頃からいつも一緒で、いつも俺を支えてくれてた雪男。
俺を仲間だと思ってくれてるこいつらのためにも、俺はまだ死ねないと思った、頑張らなきゃって思った。
信じてくれてるみんなの想いを裏切りたくないって、すごく思った。

辛い修行に耐え、周りからの罵倒や見下した視線にも耐え、仲間と一緒に戦って協力して助け合った半年間は、いい思い出だ。
あの日々があったからこそ俺はここにいるんだ、雪男の隣で、笑っていられるんだ。





「――って、聞いてる?兄さん」
「へ?あ、あぁ聞いてる聞いてる」
「…つくならもっとマシな嘘つけよ」


いろいろ思い出してたら、雪男の話を全然聞いていなかった。
軽く睨まれて低い声で言われても、いつものことだから気にもしない。


「ちゃんと聞いてたって。で?」
「…はぁ。…だからね、兄さんの今後が正式に決まったって言ったの。やっぱり僕の話を聞いてないじゃないか」
「……やっと、決まったんだな」


俺の今後、というのは、要するに処分についてってことだ。
俺は10年前、無事祓魔師になった。
そのおかげで俺の処刑は保留になり、祓魔師として働くことも許可された。
それでもまだ他の祓魔師からの扱いはひどいもんだったけど、仲間に支えられながら何とかやってこれていたんだ。


「上の奴ら、どうだった?また処刑の話でも出てきたか?」


何で処刑の話が出てくるか、それは、俺達が魔神を倒したからだ。
徐々に活発化してきた悪魔の動きに、俺達祓魔師は苦戦を強いられていた。
ただでさえ祓魔師の数は少ないというのに、悪魔はどんどん増えていき、負傷者も出てくるようになって、ついに決行されたんだ。
虚無界との、全面戦争。
長い長い戦いだったけど、俺達は…いや、俺は、魔神の野郎をぶっ飛ばすことができた。


「俺が魔神を倒したって言っても、あん時は力を使いすぎたからなぁ…」


魔神には誰も抵抗できなかった。
唯一できたのが、魔神の力を継ぎ、青い炎を身に宿した俺だけだったんだ。
だから、全力で魔神を潰しにかかった。
それまでずっと修行してきたし、魔神に勝つ自信はあったからな。
ただ、さすがに荒らしすぎた。


「あん時は大変だったよな、俺がまた暴走しちまったせいで被害がもっと広がってさ」


魔神を倒した後、俺はまた我を見失って暴れまくってたらしい。
…正直に言うと、魔神との戦いの途中から記憶がほとんど残っていない。
気付いた時には、たくさんの祓魔師達が地に倒れ、正十字学園はぼろぼろだったんだ。
それを見た時はさすがに焦った。
またやっちまった、って。
何年も修行してきたし、自分としても炎はコントロールできる自信があった。
だから、直に頼み込んで魔神討伐の最前線を俺一人に任してもらったんだ。
ジジイの、父さんの敵も討ちたかったし。
それなのに俺は暴走して、しかも俺のせいで死んだ祓魔師もいるらしい。
そりゃあ処刑の話もまた出てくるよな。


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