aoex(燐受け)

□大人なんだから
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「兄さん、早くしないと遅刻するよっ」
「分かってるっつの!!」


走る、走る。


「勝呂くん、や、志摩くん、達を、待たせてるんだからねっ」
「って、遅れてるのお前!!」
「そんなこと、言ったって…兄さんが走るの早すぎるんだよっ」


燐は相変わらずの体力宇宙っぷりを発揮しており、随分先を走っていた。
それを雪男が必死で追い掛けるも、その差はだんだんと広がっていく。


「おーい、雪男ー」
「ちょっ、と、待って…」


一足先に着いた燐が雪男を呼ぶ。
雪男はというと、息も絶え絶えのようだ。


「早くしろよなー」
「お前なぁ…奥村先生置いてくんなや。どうせ遅刻したんはお前のせいなんやろ?」
「ち、ちげぇし!!」
「吃っとんのが証拠や」


声の主は、勝呂。
店から顔を出し、呆れたように燐に言った。


「奥村先生がほんま可哀想やな、こないな兄貴を持ってからに」
「今日それ言うか?」
「俺が思とることを言うたまでや」
「あ、それ俺も思とるよー」


勝呂に同意するように店の奥から声がして、燐はぶすっとなる。


「お前らなぁ…!!」
「兄さんは、兄さんですよ」


文句を言おうと口を開いた燐だったが、それは、漸く追い付いた雪男に遮られた。


「雪男!!」
「っはぁ…兄さん早いね、疲れた…」
「悪ぃ悪ぃ」
「お疲れさん、奥村先生」
「いえ、僕達の方こそ、随分お待たせして、しまって、すみません…」


息を整えながらも遅れたことを丁寧に謝る雪男は、まだ講師としての口調が抜け切れていないようだ。
それに気付いた勝呂が苦笑した。


「そんなん気にしとる奴はおらん。どうせ奥村のせいなんはみんな分かっとるしな」
「だからちげぇって!!」
「阿呆、奥村先生が原因なわけないやろが」


勝呂と燐が睨み合うのを、雪男が慌てて間に入って止める。
それを見ていた志摩達が笑いながら店の中へと誘い、全員が席についた。


「もう、あんた達遅すぎっ」
「すみません…」
「許せよなー、出雲」
「ちょっと、気安く呼ばないでよねっ」


久しぶりの再会だというのに、それを思わせない雰囲気でそんな会話を軽く交わす。
そう、数年前は共に学んでいたこのメンバーが一堂に会するのは、久しぶりなのだ。
ならば、何故集まったのかというと。


「全員揃ったし、始めよか?」


勝呂の声に、一様にグラスを持つ。


「かんぱーい」
「「かんぱーい」」


かちん、からん。
グラスが心地良い音を立てる。
その衝撃にグラスの中で氷がぶつかりあい、何とも涼しげな音色を奏でた。


「誕生日おめでとう、燐、雪ちゃん」
「ありがとうございます、しえみさん」
「みんなもありがとなっ」


そう、今日は燐と雪男の誕生日会を兼ねての集まりなのだ。


「奥村くんもやーっと20歳になったんやし、今日はとことんまで飲もな?」
「志摩には負ける気がしねぇな」
「へー、言うなぁ奥村くん。せやけど、そないな口が叩けるのも今の内やで?」
「おい、やめとけや」


わいわいがやがや、騒ぐ騒ぐ。
誕生日会と称した飲み会は、祓魔師の任務で東奔西走する忙しいみんなにとって、いい息抜きになっていた。


「今日は奥村くんと若先生の誕生日祝いや、飲むでーっ!!」
「志摩さん、調子乗らんとってください」
「お前はすぐ酔うやろが、程々にしとけや」


立ち上がって宣言する志摩を、しかしすぐさま子猫丸と勝呂が止める。
それを見て笑ったり呆れたり。


「何だよ志摩、お酒弱いのか?」
「よっ弱ないし!!奥村くんの方が、飲み慣れとらん分弱いんちゃうん?」
「はぁ?お前には絶対負けねぇ!!」

「みんな変わってないねぇ」
「ほんと、うるさい連中ばっかだわ」
「みなさん、ハメは外しすぎないようにしてくださいね?」


雪男の言葉も、飲み比べ対決を始めてしまった燐と志摩には聞こえていないだろう。
この後のことが簡単に想像できてしまった雪男は、そっと溜め息をついた。


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