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□012:痕跡
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おまけ
「柳、泌香」
校門を抜け、部室へと歩いていた俺は呼びとめられて振り返る。
声の主は精市だ。
隣で並ぶ唯厨は肩をびくつかせて、
「きょ、今日は私が鍵開けるね!!」
そう言って、精市の方も向かずに慌てて駆けて行ってしまった。
「精市か。お早う」
「おはよう。どうしたの?泌香」
「いや、ちょっとな」
「へえ、柳。また泌香の事苛めたんだ♪」
「残念だな精市。昨日は俺が苛められたんだ」
俺はシュルっとネクタイを緩めると、勢い付けてバっと首元を精市に見せた。
精市は「あらら!」と主婦のまねごとのように口元に手をやり、俺の首をまじまじと見る。
「ハハハどうだ、面白いだろう」
「アハハ。柳ってほんと、性格悪いよね」
―――――
「アレ?柳先輩、今日はジャージじゃないんスね?」
「ん?ああ。今日は暑いからな」
「ウェアのボタンまではずして珍しっ…!!?」
「ん?どうかしたのか?」
「な、なん、ななんでもないっス…///」
赤也の奴、顔を真っ赤にしているな。
「仁王先輩!」
「おう、なんじゃ?」
「柳先輩のアレって、やっぱアレっすよね!!?」
「ほう。察しがいいのう、赤也」
「アレってやっぱ……の、ですよね?///」
「唯厨が上とはのう…俺も感心していたところじゃ」
「いいいい、言わないで下さいよっ///」
「プリっ」
仁王の奴はまったく動じていないな。
「蓮二。なんだその首は」
「ああ、弦一郎。」
「それほどまでに蚊に刺されるとは、たるんどるっ!蚊など寝ながらにして退治しろ!」
「弦一郎…これは蚊ではない」
「む。ならば虻(あぶ)か。」
「弦一郎…」
まったくこの俗世知らずの皇帝は。いい機会だ。
俺は弦一郎の肩に手を添えて耳元でつぶやく。
「これがキスマークというものだ。覚えておくといい」
弦一郎が顔を真っ赤にしたのは言うまでもない。
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